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正常体温維持の意義と3つのポイント

正常体温維持の意義と3つのポイント

周術期における手術患者の正常体温維持のためには、まずは「正常体温維持の意義」を理解し、以下の3つの項目の実践と、継続的なスタッフ教育を行うことが重要です。

  • (1)精確な核心温測定
  • (2)術式に応じた効果的な加温
  • (3)加温装置・ブランケットの適正使用

 

まずは正常体温維持にはどのような意義があるのか見てみましょう。

 

手術患者の正常体温維持の意義とは?

周術期における低体温がさまざまな術後合併症のリスクであることは既知の事実です。具体的には、心疾患リスクの増加、出血および輸血の必要性の増加、薬物代謝・覚醒遅延、皮膚障害・褥瘡、シバリングなど多数のエビデンスが示されています。

● 周術期低体温の原因とパターン

  • 周術期低体温の原因とパターン
  • 本研究では、男性ボランティア6 名を対象としています。

    麻酔導入後最初の1 時間に核心温は平均1.6±0.3 ℃低下しました。 このうち81%は、麻酔によって誘発される血管拡張のため、体熱が深部から末梢に再分布することに起因して低下したものでした。

    Matsukawa T, Sessler DI, Sessler AM, et al. Heat flow and distribution during induction o f general anesthesia. Anesthesiology. 1995;82:662-73.

    この臨床データのレビューでは、周術期の体温低下を次の3 段階に分類しています。

    Sessler, DI. Perioperative heat balance. Anesthesiology. Feb 2000;92(2):578-596.

    ● 第1 段階:麻酔によって誘発される血管拡張のため、体熱が深部から末梢に再分布することに主に起因する核心温の急激な低下
    ● 第2 段階:麻酔導入後2~3 時間にわたるゆるやかな低下
    ● 第3 段階:麻酔導入から3~5 時間後からの身体の体温調節による核心温の停滞域

● 手術部位感染と入院日数

  • 手術部位感染と入院日数
  • 本研究では、待機的結腸直腸手術を受ける患者200名を、積極的加温を行わない標準的な術中ケア群または積極的加温を行う群の2つの体温管理群にランダム化比較試験を行いました。その結果、正常体温の維持により、手術部位感染が低下し、入院日数が短縮することが示されました。

    Kurz A, Sessler Dl, Lenhardt R. Perioperative normothermia to reduce the incidence of surgicalwound infection and shorten hospitalization.
    Study of Wound Infection and Temperature Group.
    N. Engl. J. Med. 1996;334(19):1209-1215.

  • 感染率
  • 本研究では、乳房、静脈瘤、またはヘルニア手術を受ける患者421名を、標準群(非加温)または手術前に30分以上の局所加温または全身加温を行う群のいずれかにランダム化比較試験を行いました。その結果、患者の術前加温は、手術部位感染予防に有用であると考えられました。

    Melling AC, Ali B, Scott EM, Leaper DJ. Effects of preoperative warming on the incidence of wound infection after clean surgery: a randomized controlled trial. Lancet. 2001;358(9285):876-880.

● 周術期の低体温と医療費(米国)

  • 周術期の低体温と医療費(米国)
  • 1575名の患者を対象にした18件の試験に関する本メタアナリシスによると、正常体温維持に関連する医療費削減は、患者1人あたり2495~7073ドルであることが示されました。

    Mahoney CB, Odom J. Maintaining intraoperative normothermia:A meta-analysis of outcomes with costs.AANA J. 1999;67(2):155-163.

● 周術期の低体温と医療費(英国)

  • 偶発的低体温防止による1例あたりの削減額の試算:英国 NICE
  • 偶発的低体温による合併症のコスト:英国 NICE

周術期の偶発的低体温予防の費用対効果について、英国国立医療技術評価機構が実施した医療経済分析によると、患者の年齢および手術の規模によって異なるものの、回避可能な周術期の偶発的低体温1 例あたりの医療費削減は101~686ポンドであることが示されました。

National Institute for Health and Clinical Excellence. CG65 Perioperative hypothermia (inadvertent): full guideline, April 2008.

ガイドラインでは?

各種ガイドラインでも、手術部位感染(SSI)に関して「正常体温の維持によりSSI発生率を低下させる」と記載されています。

WHO
Global guidelines on the prevention of surgical site infection (2016)
http://www.who.int/gpsc/ssi-prevention-guidelines/en/

CDC
Guideline for Prevention of Surgical Site Infection (2017)
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/ssi/index.html

AORN
Guidelines for Perioperative Practice Prevention od Unplanned Patient Hypothermia (2016)

NICE
Hypothermia : prevention and management in adults having surgery
(成人における偶発性周術期低体温の管理 2018年、2016年更新)
http://www.nice.org.uk/guidance/cg65

APSIC
THE APSIC GUIDELINES FOR THE PREVENTINO OF SURGICAL INFECTIONS
http://apsic-apac.org/guidelines-and-resources/apsic-guidelines/

※APISICでは「手術部位感染予防のためのAPSICガイドライン」の日本語訳を公開しています。
http://apsic-apac.org/wp-content/uploads/2018/10/APSIC-SSI-Prevention-guideline-June-2018_JP.pdf

SSI対策アセスメントツール(APSICガイドライン参考)

  • SSI対策アセスメントツール(APSICガイドライン参考)

    SSI対策で重要なのは“バンドルアプローチ”であることは言うまでもありません。
    3Mでは、エビデンスに基づいたSSI予防のために実施すべきバンドル項目を、APSICガイドラインの勧告項目を参考にまとめ、チェックシートとしてご用意しております。特にリスクのあるケース等の患者個々のアセスメントとして、あるいは手術室スタッフのSSIバンドルアプローチの再確認等に活用いただけるツールです。

「正常体温維持の意義」を理解したら、次の3つのポイントを実践しましょう。

ポイント1:精確な核心温測定

ポイント1:精確な核心温測定

手術中の患者は、麻酔による体温の再分布、寒い手術室、加温の難しい体位で肌を露出した状態が続くなど、正常体温の維持は容易ではありません。
体温管理において、もっとも基本的かつ重要なのが、「精確な核心温を測定すること」です。
精確な核心温を測定し、自施設の低体温率を把握することから改善対策が始まり、安全かつ効率的な体温管理をするために、持続的に核心温を測定する必要があります。

体温の測定部位

AORNガイドラインでは

体温のモニタリング方法は、手術の条件に応じて選択すること。(ルートのアクセス性、ルートの侵襲性、麻酔の種類、麻酔薬の送達方法など)

核心温の測定部位(core)

  •   ·鼓膜(サーミスターを使用)
  •   ·食道遠位部
  •   ·皮膚(ゼロ熱流束温度測定装置を使用)
  •   ·鼻咽頭
  •   ·肺動脈等

深部に近い部位(near-core)

  •   ·口腔
  •   ·腋窩
  •   ·膀胱
  •   ·直腸
  •   ·皮膚
  •   ·鼓膜(赤外線センサーを使用)

AORNガイドライン:予定外の低体温の予防に関するガイドライン Recommendation II a より

ポイント2:術式に応じた効果的な加温

ポイント2:術式に応じた効果的な加温

温風式加温は、安全かつ効果的に患者の体温を正常に維持する方法として、もっとも多く使用されている加温方法です。
温風式加温に用いるウォーミングブランケットは、
①手術操作を妨げないこと(術野へのアクセス)
②接地面を広範囲に取れること(対流効果)
を考えると、患者の下に敷くタイプのアンダーボディブランケットが効果的とされています。


アンダーボディブランケットの対流効果

アンダーボディブランケットの対流効果

術式に合わせて適切な加温装置とブランケットを選択し、適切に使用しましょう。

体位別推奨ブランケットと使用手順はこちら
ポイント3:加温装置・ブランケットの適正使用

ポイント3:加温装置・ブランケットの適正使用

安全かつ効果的に患者加温装置やブランケットを使用する上で、もっとも重要なことが適正使用です。不適切な使用は医療事故につながる可能性があります。
添付文書にも、

  • ・指定装置のエアーホースをブランケットに接続せず、直接患者を加温すること(ホージング)の禁止
  • ・再使用の禁止
  • ・指定の装置と異なるブランケットを使用すること(混用)の禁止

を明記しています。


3大 不適正使用

  • ホージング

    ブランケットを使用せず、ホースから直接出る温風で加温を行う方法です。
    ブランケットを使用していても接続口が緩んで外れてしまうことで、結果的にホージングとなる場合もあります。

  • 再使用

    ディズポーザブル(単回使用)のブランケットを何度も使いまわすと、次のようなリスクを高める可能性があります。

    • ・複数の患者間使用での、交差感染のリスク
    • ・単回使用設計のホース接続部外れのリスク
    • ・再使用によるブランケットの破損のリスク

    また、再使用をするためにタオルケットなどを挟み込む方法もありますが、その方法では加温効果が損なわれるというデータが示されています。

  • 混用

    温風式加温装置と異なるメーカーのブランケットを使用することです。
    温風式加温装置とブランケットは1つのシステムとして設計され、ブランケットから戻る風圧と温度のバランスを保つことでトータルシステムとして適切に機能する設計となっています。


添付文書とは?

各項目の意味や読み方などを掲載した「添付文書の手引き」はこちら


添付文書に記載の禁止事項を確認し、適切に使用しましょう。


安全にお使いいただくために

継続的な院内教育

スタッフ全員が統一した周術期の体温管理を実践できるよう、教育の継続が必要です。
看護手順を標準化するためには、知識の標準化が必要です。3Mでは、院内教育・勉強会などでお使いいただける動画資料をご用意しております。
※以下のコンテンツをご希望の方は、弊社営業担当者へのお問い合わせ、または、こちらのサンプル・資料請求フォームよりご請求ください。

院内教育動画サンプル(動画の一部をご覧いただけます。)

  • 周術期体温管理の基礎知識 ① -なぜ〈周術期体温管理〉が必要なのでしょうか?-

    周術期体温管理の基礎知識 ① -なぜ〈周術期体温管理〉が必要なのでしょうか?-

    (再生時間:2分15秒)

    低体温による合併症やリスクを解説し、麻酔導入による急激な体温低下を防ぐために、体温を適切にモニタし、36℃以上に保つ周術期体温管理が重要であることをご紹介しています。

  • 周術期体温管理の基礎知識 ② -効果・効率を考えた加温法-

    周術期体温管理の基礎知識 ② -効果・効率を考えた加温法-

    (再生時間:1分29秒)

    効果的な加温方法として、広範囲に皮膚表面から加温することができる温風式加温。効率的な加温方法として、ブランケットのデザインや温風加温装置の性能を解説します。

  • 周術期体温管理の基礎知識 ① -なぜ〈周術期体温管理〉が必要なのでしょうか?-

    周術期体温管理の基礎知識 ① -なぜ〈周術期体温管理〉が必要なのでしょうか?-

    (再生時間:1分43秒)

    適正使用の基本原則である添付文書を参照しながら、不適切な使用例としてホージング、コミングリング(混用)、リユース(再使用)のリスクを解説します。

いつでもご登録・ご視聴いただけるWEBセミナー
  • 周術期体温管理WEBセミナー
    「手術室での理想的な体温モニタリングを目指して ~3M™ ベアーハガー™ 深部温モニタリングシステム導入経緯とその後の運用例~」

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    【講演内容】
    ・周麻酔期看護師とは
    ・周術期体温管理の重要性
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    ・3M™ ベア―ハガー™ 深部温モニタリングシステムの導入経緯と運用例

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