金沢医科大学病院 医療安全部
感染制御室 課長
感染管理認定看護師
野田 洋子 先生
中心静脈カテーテル(CVC:Central Venous Catheter)の主な挿入部位として鎖骨下静脈、内頸静脈、大腿静脈が挙げられます。当院では感染発生率が最も低い鎖骨下静脈への挿入が推奨されています。ただし、肺疾患を扱う呼吸器内科などではCVC挿入に関連した機械的合併症(気胸、血胸など)のリスクがあることから、大腿静脈への挿入が多い傾向にあります。大腿静脈穿刺は感染発生率が高まるため、より徹底した皮膚の保清が必要になります。
カテーテル挿入部の皮膚が汚染されていると、挿入部位の消毒効果が低下し、感染リスクが高くなります。そのため、当院では感染対策マニュアルにも皮膚の保清管理についての項目を盛り込み、CVC挿入前から挿入部位の皮膚保清を行っています。シャワー浴が可能であれば、石鹸をよく泡立ててカテーテル挿入部位をこすらない程度に洗浄するように看護師が指導します。大腿静脈挿入の患者さんには、必ず陰部洗浄を行うように伝えます。シャワー浴が困難な方には、看護師がディスポタオルで清拭します。
また、当院では、患者さんの皮膚の脆弱性を視覚的に判断することは難しいと考え、基本的にはCVC挿入の全例に対して、皮膚損傷に対する予防のための皮膚の保護を行うこととしています(表1)。CVC挿入後は、被膜剤を塗布し、滅菌フィルム材で保護します。出血があるなどの理由から被膜剤を塗布できない場合はガーゼで仮固定し、患者さんが病室に戻ってから看護師が止血を確認し、血塊や消毒液などを取り除き、挿入部皮膚を消毒したのち、被膜剤を塗布し、滅菌フィルム材で保護します。
表1 中心静脈カテーテル感染防止対策(院内マニュアルより抜粋)
Ⅲ 挿入後の管理
Ⅲ-① 挿入直後の衛生管理
・挿入部に血液や消毒液などが付着している場合には、十分に除去してから滅菌フィルム材で保護する。
・滅菌ドレッシング材の貼り替えによる機械的皮膚刺激を最小限にするために、被膜剤などを塗布(刺入部にかからないよう注意)する。
・温湯で湿らせたタオルで愛護的に消毒薬を清拭し除去する。
・ハイポアルコールの脱色目的の使用は原則禁忌!:消毒効果が消失し、皮膚炎の原因にもなる。使用後は拭き取りのための清拭を行う。
・刺入直後、出血がある場合はガーゼで覆う。止血を確認したら、すぐに血塊や消毒液などをすべて取り除き、刺入部を清浄化する。
CLABSIを発症した患者さんは重症化しやすく、CLABSI防止のためにはリスク因子や感染経路を理解し、これらを遮断するために徹底した感染管理が求められます。CLABSIを引き起こす微生物の主な侵入経路はカテーテル挿入部汚染、ハブなどの接続部位汚染、薬液汚染があり、原因となる主な微生物はブドウ球菌などの皮膚常在菌や、陰部に多く棲みついているカンジダ(真菌)などです。
以前、当院において、カテーテルの縫合固定部から血液や滲出液、膿がカテーテル挿入部に入り込み、血液培養の結果からも皮膚常在菌が多く検出され、CLABSIを発症した事例を経験しました。この事例をきっかけに、カテーテル挿入部からの微生物侵入経路を遮断する対策が重要であると強く感じました。まずは、カテーテルが接触する部位そのものからの侵入が想像できますが、挿入部位だけではなくその周囲の皮膚も含めた管理が必要と考えました。例えば、滅菌フィルム材の貼り剥がしによる機械的刺激により皮膚が損傷すると、そこに皮膚常在菌が増殖することによってカテーテル挿入部周囲の細菌定着が増加し、それが原因となってCLABSI 発症のリスクが高くなります。そうした可能性が考えられる以上、挿入部の管理だけでなく、その周囲の皮膚の保護も行わなくてはなりません。被膜剤の使用を取り入れることは、CLABSIを防止するうえでは重要だと考えています。
また、カテーテルラウンド時や感染発生事例の調査介入時において、滅菌フィルム材を剥がした後に発赤やびらん等の皮膚損傷が見受けられたり、患者さんから痛みの訴えがあったりしました。皮膚が脆弱な放射線治療の患者さんや小児患者さんでは、皮膚の赤みが出やすく、相談されるケースが多くありました。カテーテル挿入部位では何度も同じ部位に粘着製品を貼り剥がしせざるをえず、皮膚を損傷したからといって、すぐにはカテーテルを他の部位に挿入し直すことができません。こうしたことも踏まえて、皮膚の保護にも取り組むようになりました。
カテーテル挿入部位を被膜剤で保護する場合、皮膚消毒した後、いわゆる無菌野に被膜剤を塗布することになります。そのため、皮膚に直接触れる先端部分はもちろん、保持する部分も含め製品全体が滅菌済みで、使い切り(単包)の仕様であることが重要です。被膜剤を塗布して皮膚を保護した後は、滅菌フィルム材を貼付しますので、一連のケアは清潔操作であり、滅菌品を選定しておくことで、現場では混乱なく使用することができます。また、操作性という点では、被膜剤を塗布する際に手が皮膚に触れない形状であることも重要です。当院では、被膜剤を医師、看護師ともに使用しますが、手が汚染されていないとも限らず、その手が皮膚に触れてしまうリスクが少ない製品形状であることが望ましいと考えます。さらに、塗布する際に患者さんの皮膚を損傷しないような柔らかく滑らかな素材であるかどうかもチェックポイントとしました。最後は運用面です。患者さんの皮膚状態は様々ですので、健常皮膚だけでなく、肌荒れがある皮膚にも使用できる医療機器であることも要件となります。
表2 皮膚を保護する製品の薬事区分と適応
薬事区分 | 使用できる皮膚状態 |
---|---|
医療機器(液体包帯) | 損傷のある皮膚 健常皮膚 |
化粧品 | 健常皮膚 |
雑品 ※薬機法対象外 |
健常皮膚 |
表3 製品選択のポイント
(1)滅菌品であること
(2)操作性がよいこと
(3)医療機器であること
導入にあたっては院内の材料検討委員会で、前述の要件に当てはまる製品として、3M™ キャビロン™ 非アルコール性皮膜(以下、皮膜剤)が必要であることを説明しました。また、皮膜剤を使用しないで滅菌フィルム材を貼り剥がしした場合の皮膚の写真を提示したり(写真)、放射線治療中の患者さんには発赤が多くみられるのですが、そのような患者さんにも使用できることを説明したりして、コストは増えますが患者さんの満足度の向上につながることを訴求し、導入が決定しました。まず感染リスクが高い呼吸器内科から取り入れて、段階を経て全病棟に皮膜剤の使用を浸透させていきました。
CVCの管理においては、患者さんが必要とする治療が完了することが重要だと思います。入院患者さんは多くの苦痛を抱えています。皮膚損傷を起こすと、カテーテル挿入位置の変更や再挿入によって、治療が中断してしまうだけでなく苦痛がさらに増大してしまいます。また、滅菌フィルム材を剥がす際に生じる痛みや恐怖心、痛みに対するストレスを軽減させることは、患者さんのQOL 向上につながります。実際、滅菌フィルム材を剥がすたびに痛みを訴えていた放射線治療中の患者さんがいましたが、皮膜剤の使用後は痛みの訴えがなくなったばかりか、皮膚損傷が軽減され、カテーテル管理の継続が可能となりました。患者さんからの「痛みがなくなった」という声は、医療者にとっても励みになるので「きちんとケアしよう」というモチベーションにもつながります。
皮膜剤導入をはじめとする、多角的なCLABSI防止対策の徹底が進むことにより、感染件数や皮膚損傷の相談件数も減ってきています。現場のスタッフからは「挿入部の皮膚保清や皮膚損傷防止を徹底したら、感染がゼロになった」という言葉も聞かれます。
当院でのカテーテル由来血流感染(CRBSI:Catheter-related bloodstream infection) 関連対策の教育は、2つの場面で行っています。一つは集合教育、もう一つはラウンド等の現場での直接指導です。
[集合教育]
[直接指導による現場教育]
カテーテルラウンドは感染管理認定看護師が中心となり、感染制御チームで行っています。そこで何らかの問題が見つかったときには、物品を使ってその場で手技を再現してもらったり、マニュアルに沿った正しいケア方法を確認してもらったりするようにしています。現場教育では患者さんの様々な状況に応じて、カテーテルの固定方法など具体的なアドバイスも行っています。
感染発生事例の調査介入については、臨床感染症学から、血液培養検査で陽性となった患者さんやカテーテル感染が疑われる発熱の患者さんの情報が感染制御室に上がってきます。その患者さんの観察記録を見直し、いつカテーテルを挿入したか、いつ滅菌フィルム材を交換したか、皮膚消毒や皮膚の保護が適正に行われたかなど細かくチェックします。例えば、発赤が少し見られたことが翌日の記録になかったために、その情報が次のスタッフに引き継がれないまま放置され、CRBSIに至った可能性もあります。
カテーテルラウンドおよび調査介入で洗い出したすべてのデータや問題点は病棟の感染リンク委員に必ずフィードバックします。そして感染リンク委員がその情報を師長やスタッフに伝え、改善につなげていきます。組織として体制を整え、周知徹底を図り教育を行っています。
マニュアルを充実させたり、重要性や方法、手技を現場スタッフに伝えてくれる感染リンク委員とリンクナースの体制を整えたりして現在に至っています。しかし、それでもなお、感染がゼロにならないということは、どこかで抜け落ちがあるということです。感染対策は多角的かつ緻密なアプローチが必要です。感染をよりゼロに近づけるためには、サーベイランスやモニタリングをし、評価をする、異常があったらすぐに察知し介入する、このような活動を繰り返し行っていく必要があると思っています。これからも地道にコツコツと取り組んでいきます 。