● ウイングつき末梢静脈留置針の固定材料として、同じ会社から販売されている専用のフィルムドレッシング材を見直すことにした。専用品という響きは院内で評価も高かったが、発熱が多い脳外科病棟等では、剥がれやすく問題となっており、専用製品か否かではなく、3職種それぞれの視点から原点に返って、①固定力を確保すること、②観察がしやすいこと、③皮膚トラブルを起こさないことを重点ポイントとして、それに合致する製品と方法を検討した。
● 血管内留置カテーテルの固定材料で重視するポイントとして、「医療安全」の視点からは、❶固定力、❷皮膚に与える影響、❸価格が、「感染管理」の視点からは、❶固定力、❷刺入部の観察ができること、❸一つのセットで完結することが、「WOCN」の視点からは、❶皮膚への影響、❷チューブ類のロック部分の医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)、❸固定力と皮膚の緊張のバランスが重要と考えられる。
● 検討に当たっては各製品の特長やデータを基本とするが、他の病院での採用実績、他の病院所属の認定看護師仲間の評価なども参考に、3M™ テガダーム™ I.V. コンフォート フィルム ドレッシング(以下、テガダーム™ I.V. コンフォート)を試用した上で採用した。末梢静脈カテーテルの固定の見直しで道筋がついたことから、中心静脈カテーテル、末梢動脈カテーテル(Aライン)の固定に関しても同じシリーズの製品を導入し手技を統一できた。
山田(感) 数年前から、ウイングつきの末梢静脈留置針と、その製品専用のフィルムドレッシング材をセットで使用していました。専用品という響きは医療安全の観点からもプラスポイントであったと思います。ただ、発熱が多い脳外科病棟等では、剥がれやすく自然抜去も自己抜去も多かったので、WOCNの山名さんに相談したところ、山名さんも病棟から同じ悩みを相談されていたのです。
山名(W) 病棟からは、「肌には優しいけど剥がれやすいから、補強のためにサージカルテープを上から使って固定している」という声が多くあり、詳しく調べたところフィルムドレッシング材の上から何枚も重ね貼りして留めて補強している状況で、粘着力に問題があると判断しました。
山田(感)、山名(W) 端的に言うと、ウイングつきの末梢静脈留置針と専用のフィルムドレッシング材の組み合わせは、固定方法が確立され使い勝手も良かったのですが、残念ながら、剥がれやすく皮膚へのやさしさとの両立が難しかったということです。ただ、製品を切り替えることは手技を変えることでもあり、また、全病棟に影響するので、さらに別の視点も必要と考え、医療安全にも入ってもらい対策を検討しました。
中村(安) 医療安全の視点からは、❶固定力、❷皮膚への影響、❸価格です。❶はもちろんですが、❷については、特に使用後に除去しやすいこと、アレルギーや剥がすときの表皮剥離なども考慮が必要であり、院内全体で使う製品なので❸の価格も重要だと思います。
山田(感) 感染管理の視点からは、❶固定力、❷刺入部の観察ができること、❸一つのセットで固定が完結すること、です。❶は汗によるヨレが起きにくいことに注目しています。❷の刺入部の観察は、医療安全や皮膚への影響などにも通じますが、刺入部の周囲発赤や滲出液があるかを観察することで血流感染の兆候を早期につかみ、必要に応じて留置針を刺し替えるので重要と考えます。
山名(W) WOCNの視点からは、❶皮膚への影響、❷留置針と延長チューブの接続ロック部分のMDRPU対策、❸固定力と皮膚の緊張のバランスを挙げます。❶については、貼付中や剥離時のスキントラブルの要因となる浸軟予防のための透湿性の高さを重視します。また、❸は、固定力がしっかりしていても外縁部が引っ張られると緊張性水疱が発生するので、複合的な視点が必要だと思います。
「固定力」や「皮膚への影響」という同じ項目を挙げていても、職種によって見る視点は異なることがわかりました。
山田(感)、山名(W)、中村(安) 3職種で視点が異なるので合意は簡単ではありませんでした。検討対象が専用のフィルムドレッシング材であったので院内でも信頼が大変高かったのです。とはいえ、現場から相談が多かったのも事実なので、まず原点に返って、①固定力を確保すること、②観察がしやすいこと、③皮膚トラブルを起こさないことを重点ポイントとして、それに合致する製品と方法を検討しました。検討にあたっては、各製品の特長やデータを基本として、他の病院での採用実績や、他の病院所属の認定看護師仲間の評価なども参考に、成人用にテガダーム™ I.V. コンフォート(1683)(画像1)を試用した上で採用しました。試用段階で①については周囲が透明粘着フィルムと不織布テープの2重構造で補強されていて固定力が高いこと、②については追加していた補強テープが不要となったので観察を妨げにくくなること、③については粘着剤が格子状に塗布され水蒸気透過性が高いので汗によるヨレが少ないこと、周囲補強部分に細かな加工があって皮膚への緊張が軽減されていることなどが高評価となりました。留置針の形状に即しての詳細な使用手順の資料を提供いただいたことで、適正使用の確保を通じて製品特長が実感でき、高評価につながったのだと思います。
山名(W) 小児用には、成人用のものを切って使っていたのですが、その後、小児用のもの(1682)が発売されたので、ほぼ同じ手順で使えることから採用しました。(画像2)
小児の末梢静脈留置針はウイングつきの留置針ではなく、発汗や動きにより成人より強固な固定が必要なのでα留めをし、接続部分の圧迫(MDRPU)も問題となるためガーゼで保護して圧迫を回避しています。
山田(感) 感染管理の視点からは接続部も全てフィルムで覆いたいと考えますが、WOCNの視点からはMDRPU対策として覆いたくないと考えるなど、意見の調整が必要でした。
中村(安) 末梢静脈カテーテルの固定の見直しで道筋がついたことから、同様に試用と評価をして中心静脈カテーテル、末梢動脈カテーテル(Aライン)の固定に関しても同じシリーズの製品を導入し手技を統一できましたので、さらなる医療安全の確保に結びついたと思います。
画像1 3M™ テガダーム™ I.V. コンフォート フィルム ドレッシング 1683
画像2 3M™ テガダーム™ I.V. コンフォート フィルム ドレッシング 1682
※サージカルテープを追加してシーネを固定。
山田(感) 手技の変更についてのマニュアルは、3Mの病院担当者、学術、技術などのサポートをいただきながら作成しました。いわゆる大枠の看護技術・看護手順はオンライン教育ツールサービスで教育をしていますが、今回の製品変更による細かい手順については、クオリティマネージメントセンター感染管理室の管轄として、看護の感染担当の副部長と連携をして固め、感染防止対策マニュアルに入れました。また、変更の周知にあたっては、全ての人に触ってもらう教育をモットーに3Mの病院担当者と一緒に全部署へ出張説明会をしました。全部署を回るのは確かに大変なのですが、実物を触ってもらいながらその場で質問を受けるのが一番確実で効果的です。その後、新人には新人教育の中で、中途の方にはOJTで教育しています。
中村(安)、山名(W)、山田(感) 3職種での定期連絡会はありませんが、部屋が隣でドアも開いているので、普段から何かあれば相談するようにしており、その点は環境的にも恵まれています。新人研修は合同で実施することもあります。定期的な合同の研修会は行っていませんが、今回の件については、一緒に活動しているので院内の混乱はないです。
山田(感)3日に一回の交換を基本としています。今回の製品変更による変更はありません。米国CDCガイドラインには「成人においては感染および静脈炎のリスクを低減するために72〜96時間ごとより頻繁に末梢カテーテルを交換する必要はない(カテゴリーIB)」とありますが、当院は毎年多くの看護職が新たに入職する急性期病院であり、医療の質のバラつきをなくし安全を担保するために72時間毎の交換を基本としています。末梢ラインが確保しづらい患者や、緩和ケア病棟などで痛みに敏感な患者の場合は、十分な観察をしながら5日間留置することもあります。活動度が高く固定がゆるみやすい患者や、心不全などで浮腫があり皮膚や血管が傷みやすい患者の場合は、3日以内であっても発赤やヨレや剥がれがあれば交換するのは大前提です。長期に入れることが目的化してしまうことがないように、交換頻度が上がることは観察をしっかりできていて、異常を早期に発見できていると前向きに捉えています。
山名(W)テガダーム™ I.V. コンフォートの成人用(1683)と小児用(1682)を採用しましたが、マニュアル上では使い分けは明記していません。新生児は院内ルールで使用しないことにしていますが、乳児には小児用を使用します。4~5歳くらいになってくるとテープの貼付面積が狭いと剥がれてくるので成人用を使用するように現場で判断しています。当初は小学校に入るまで(6歳)で線を引いていましたが、患児の状況、汗・疾患・手背の大きさに応じて臨機応変に対応するようにしました。4~5歳になると、動きが活発になるので、小児用の1682だと貼付面積が小さくて動きに耐えられないケースも散見されます。小児にも成人用の1683を使用しても固定力が確保されていれば角が多少剥がれてもかまわないと考えています。小児は貼り替えが大変なので「大きいと安心」との現場の声は理解できます。製品特長と手技は同じでサイズだけが異なる製品を、患児に合わせて適切に使い分けすることが重要だと思います。
山名(W)看護体制が、2019年から「セル看護提供方式®」になったので、あらゆることで観察機会や対応が早くなってきています。抜去事故のインシデント・アクシデントはもちろん、静脈炎についても、以前よりも、疑いや初期段階で対処できるようになっています。
中村(安)医療安全の視点での手順の変更の効果判定には、看護体制、末梢静脈留置針、固定材料、手技等が要因となりますが、それぞれ時期がズレながら変わっているので過去からの直接比較はできないのです。院内のデータ集計では「ルート」に関するインシデント・アクシデントの数は年間で現在10件程度であり、以前よりは確実に減っています。とはいえ、カルテを読んでいるとインシデント・アクシデントでは報告されていないケースも散見されます。ただしそれは隠す意味ではなく、初期段階のうちに解決した報告漏れなのだろうと思います。ルートが「抜けてしまった」ではなく「抜けかけていたので貼り替えた」例が多くなっているのだろうと思います。そのような軽微なインシデントであっても報告する習慣はとても大切だと思います。報告やカルテからみると、静脈炎は心不全の方や浮腫で皮膚が弱い方、がんの末期の方などで発生する傾向があります。
山田(感)直接比較はできませんが、「末梢ルート 抜去」で院内のデータを検索すると、自然抜去は現在5件程度であり、以前の40件程度から大きく減っています。静脈炎については、そもそも発生件数が少なく複合要因で起こるので固定材料の変更との相関は明確には感じていません。医療安全上、抜去の視点からはもちろんですが、刺入部のゆるみやズレが感染を引き起こす要因となるので「密着させる」ことを重視しています。静脈炎だけでなくBSI対策として広く捉える方が良いと思います。
中村(安)現在のところ医療安全の視点では、特に気になることはありません。期待通りの製品です。
山田(感)期待通りで満足していますが、今後の提案として、観察しやすいように透明な部分がもう少し大きくなると良いと思います。また、透湿性をあげるために格子状に粘着剤を塗布しているのは理解し、その効果も実感していますが、慣れるまでは格子が観察の妨げになっていないかを注意して観察していただくと良いです。
山名(W)固定力と皮膚への影響のバランスが良いと思いますが、剥離時にスキン-テアのリスクがある患者については必要に応じてリムーバーを使用することをお勧めします。
中村 (医療安全) |
①固定力 | 8点 | 汗がたまらず密着している。 |
②皮膚に与える影響 | 8点 | 剥がすときの表皮剥離、アレルギーなどの報告がない。 ※全ての方に表皮剥離、アレルギーが起こらないことを保証するものではありません。 |
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③価格 | 10点 | - | |
山田 (感染管理) |
①固定力 | 9点 | - |
②刺入部の観察ができること | 7点 | 観察するためには透明部分がもう少し大きい方が良い。粘着剤が格子状なので蒸れにくいが、慣れるまでは観察を阻害していないか注意をした方がよい。 | |
③一つのセットで完結 | 10点 | - | |
山名 (WOCN) |
①皮膚への影響 | 9点 | 皮膚の浸軟は特にない。 剥離時スキン-テアのリスクがある患者にはリムーバーを使うように教育している。 |
②チューブ類のロック部分のMDRPU対策 | 10点 | ロック部分に干渉しないよう、固定部分が鍵穴状にデザインされていて留めやすい。 補助用のテープでΩ留めができる。 |
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③固定力と皮膚の緊張のバランス | 10点 | 周囲補強テープ部分に細かなスリットがはいっているので動きによる引っ張られ感がない。緊張性水疱の報告は上がってきていない。 |
* セル看護提供方式®:福岡県にある飯塚病院が発案した看護方式。生産性向上を目標に、製造業におけるセル生産方式を応用。
日勤看護師全員が患者を均等に受け持ち、看護業務のムダを徹底的に排除した病室内で看護を完結させるのが特徴。