小児の点滴固定は皮膚の脆弱性や多汗、不感蒸泄など小児特有の性質により点滴が抜けやすい状況にあることから、点滴が抜けないことが優先される。しかし、情報を入手することが困難なことも多く、小児科だけは昔からの手技を踏襲している、ということも多いのではないだろうか。
今回、小児の点滴固定における課題と3M™ テガダーム™ I.V. コンフォート フィルム ドレッシング〔以下、テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)〕の導入による新固定方法の有用性について、感染管理の視点から金沢医科大学病院の野田洋子先生、皮膚・排泄ケアの視点から大阪母子医療センターの松尾規佐先生、新生児集中ケアの視点から大阪府済生会吹田病院の村上志保先生に解説とディスカッションをいただいた。
カテーテル関連血流感染(CRBSI)の原因となる微生物侵入経路は、①カテーテル挿入部位の汚染、②カテーテルハブの汚染、③持続注入薬の汚染、の3つがあり、この経路を遮断することが予防策となる。
末梢静脈カテーテル管理において、細菌性静脈炎は上述の侵入経路からの細菌感染そのものであるが、そのほかに薬剤の強い刺激による化学的静脈炎、カテーテル接触部の血管内皮の損傷による機械的静脈炎がある(図1)。いずれも悪化すると蜂窩織炎や敗血症につながるおそれがある。
したがってカテーテル刺入部周囲は、微生物侵入防止、衛生環境保持、異常の早期発見を目的に滅菌された透明フィルムドレッシングで覆うことが重要だと考える。
文献1より改変
図1 静脈炎の種類と対応
 
〈使用物品〉
・テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)
・3M™ キャビロン™ 非アルコール性皮膜(以下、被膜剤)
〈挿入前の準備〉
歩行可能な患者には自身で手洗いをしてもらう。ADLが低下した患者には手浴などを行う。
〈カテーテル穿刺時〉
全症例に対し、刺入部周囲皮膚に被膜剤で皮膚を保護する。
〈カテーテル留置中〉
当院では、米国輸液看護協会の静脈炎スケールを用いて経時的に評価している。特に注意したいのが痛みの観察である。
・自発痛:患者本人への問診
・圧痛:特に重要で、医療者が清潔な手袋をして触診する
・発赤の確認:皮膚の色や状態によっては確認しづらいため、明るい場所など適切な環境・方法で観察をする
とかく医療現場では新規物品への切り替えには勇気を要するが、今回、当院で本製品を臨床使用した医師からは刺入部が見えることで輸液管理に安心感が生まれたと高評価を得ている。CRBSIは合併症であり、これからもゼロを目指さなくてはならないと考えている。カテーテルを挿入したのであれば早期抜去を目指すことを前提として、継続するのであれば適切な衛生管理の知識とテクニックの習得、サーベイランスによる異常の早期発見、対応が求められる。
小児の皮膚は成人の1/2ほどの厚さしかなく、成人に比べて構造的・機能的に未熟である。表皮と真皮の結合が弱く、浮腫や局所の循環不全により水疱・表皮剥離が起こりやすい。点滴固定においては、カテーテルハブやルートの接続部の皮膚への圧迫によりMDRPU(医療関連機器圧迫創傷)発生のリスクもある(図3)。
成人に比べて発汗量、不感蒸泄量が多く、テープ類の貼付によって蒸散障害が生じ浸軟しやすい。これまで数回、PLABSIの予防と刺入部の観察のために透明フィルムドレッシングによる固定の導入を試みたが、汗でフィルムが浮き上がってしまい、なかなか固定力が維持できないという経験があった。
小児は血管が細く血管確保が難しいことや、体動が激しく抜去されやすいことから、確保できたルートは大事にしたいという思いが強い。点滴固定用品の貼り替えさえも抜去のリスクを伴うため、点滴固定用品の貼り替えの頻度も少ないほうが良い。
したがって点滴固定用品には固定力に優れた製品を使用したいが、一般的に固定力の高い製品は皮膚障害リスクも高い。
3種類の固定方法を患児にあわせて選択してきた。
A)未滅菌テープによる固定方法
しっかり固定できるため、血管確保が困難な場合や体動が激しく固定に理解が得られない場合において強い安心感がある。未滅菌製品であること、刺入部の観察ができないことが欠点である。
B)3M™ テガダーム™ I.V. トランスペアレント ドレッシングによる固定方法
刺入部をしっかり観察でき、幼児期以降の点滴管理に配慮できる患児に使用してきた。しかし発汗や麻酔覚醒時の興奮で剥がれてしまうことがあり、小児科病棟では低評価だった。また乳児に適したサイズがなかった。
C)複数の固定用品を組み合わせて自作した固定方法
皮膚トラブルのリスクが高い患児に有用だった。しかし複数の物品の準備と、やや複雑な手技であるため、院内の統一が困難だった。
〈使用物品〉
・テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)
・MDRPU対策用のクッション材
・固定用品の剥離時:患者の状態に応じて剥離剤を使用
〈方法〉
①留置針の刺入が完了しルートと接続したら、カテーテルハブの下にクッション材を貼付する。
②テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)に同梱されている固定用テープ(白)で留置針を固定する。針の動揺を防ぐため、刺入部が隠れないギリギリのラインに貼付する。
③テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)の本体を貼付する。
④固定用テープ(くま)で接続部をΩ留めにする(図4)。乳児や新生児など接皮面積が狭くΩ留めにできない場合は、ルートに固定用テープをしっかりと巻きつける。
⑤ルート固定には付属の日付テープを使えば、他の補助テープを準備する必要はない。
図4 固定用テープによるΩ留め
〈院内での適用範囲〉
・NICU入室中以外の患児
・点滴固定部位は手背、前腕、足背、下腿など
固定力・透湿性が高く、循環器系疾患でじっとりした発汗がある患児にもテープ浮きが生じずに使用できている。
小児期の輸液療法の特徴として、
・患児にとっても医療者にとっても大きなイベントである
・臨床経過が急激に変化するため確実な薬剤投与が求められる
・pHの低い薬剤による血管外漏出は壊死・潰瘍形成など重大な問題につながるおそれがある
といったことがあり、そのため綿密な観察が重要であるが、
・患児から正確な情報を得たり、協力を得ることは難しい
・患児が点滴固定用品、点滴ルートに興味をもち不用意に触れるため計画外抜去が少なくない
という状況から計画外抜去が起こるたびに固定するテープを増やしたり包帯で巻いたりする傾向があり、刺入部の観察はさらに困難となって悪循環に陥る。
また一般病院、大学病院などにおいては、小児科病棟だけでなく救急など他の病棟のスタッフも小児の点滴管理を実施する機会があるため、簡便な方法に統一する必要がある。
〈使用物品〉
・未滅菌テープ
・不織布テープ
・3M™ テガダーム™ I.V. トランスペアレント ドレッシング
・MDRPU対策用:小ガーゼ
刺入部の観察はできず、製品に描かれたくまのイラストも見えなかった(図5)。
当時、従来スリップタイプの点滴コネクタを使用してきたが、接続部からの薬液漏れによってルートが閉塞したり、皮膚障害が発生し大きな問題となっていた。スリップタイプからロックタイプに変更するにあたり、点滴固定方法ならびに点滴固定用品もあわせて検討した。
〈小児看護における点滴固定用品選択のポイント〉
デバイスが患児の快適性を左右し、我々の業務をどんどん増やしていくという現状から、点滴固定用品の選択根拠を持つことが重要であると考えている。
・刺入部の観察ができ、計画外抜去されないという安全性
・蒸れない、清潔、患児の動きを妨げないという快適性
・不必要な抑制をしないという倫理性
・簡便で誰でも実践できる簡便性
〈使用物品〉
・テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)
・固定用品の剥離時:全例に剥離剤を使用
〈方法〉
①留置針の刺入が完了しルートと接続したら、テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)に同梱されている固定用テープ(白)を貼付する(図6)。
②テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)の本体を貼付する。
③固定用テープ(くま)でカテーテルハブの接続部を固定する
松尾先生:当院では以前から医療安全管理室と相談し、点滴漏れの早期発見のために刺入部が観察できる点滴固定用品に変更しようと検討していました。そこで点滴固定ワーキングメンバーを立ち上げ、病棟看護師、感染管理者、集中治療科・ 心臓血管外科の小児科医師に参加を依頼し、医師の視点からも問題点を指摘していただきながら解決策を検討しました。今回は、試行の段階で医師が、「以前の固定方法とは固定力が違う」という実感を持たれたことと、私たちが複数の固定製品を組み合わせて自作していた従来法と同じようなテープが付属していることが採用の後押しになったと思います。
村上先生:当院では今まで、認定看護師がある程度デバイスを選択した上で医師と協議していました。今回の点滴コネクタと点滴固定用品の変更については、医療安全部門と感染管理認定看護師にも加わっていただき協議しました。現在、小児科医にも参加していただいています。ちょっと反省ですが、最初から医師に問題提起して介入していただくことが必要だったかなと思っています。現在は、候補物品の試用中の経過をすべて写真に記録し、可視化したデータを医師に報告しています。大変な苦労になりますが、見える化したデータで話をしていくことが必要なのかなと思っています。
野田先生:感染対策の立場で申し上げると、サーベイランスを実施する上で刺入部の観察は必須です。そのため刺入部が観察できないという問題には感染管理の立場から改善を提案しています。感染管理は管理部門ですので、病院側に交渉しやすい立場にあります。また物品の導入については、当院では当該部署の師長の考えが重要です。さらに各分野のリンクナースから情報を得て、感染管理が病院側と直接折衝しています。
村上先生:小児科処置室に手順書を貼ってスタッフに周知し、スタッフ一人ひとりに手順通りに貼付できるかを確認しました。全員がOKになった段階で使用を開始しました。スタッフ間の呼吸やタイミングがあわないとケア時間が増え、患児の快適性を損なうため、事前にスタッフ全員が阿吽の呼吸でできる状態にした上で本製品の使用を開始しました。
松尾先生:まず、手順書マニュアルを作成して各部署に一斉配布しました。使用機会の多いICUには 褥瘡委員が中心となって作成した動画をタブレットに格納して、スタッフがいつでも確認できる環境を作りました。看護師がしっかりと手順を把握しておけば、医師にも伝えることができます。テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)はこれ1つで点滴固定が完結するため、現場が混乱することはありませんでした。
野田先生:カテーテル管理については院内の集合教育で実施し、物品が変わった時には必ず医局も含めた全部署にその使い方を説明してまわります。これにはお昼のランチミーティングなども活用しています。スタッフとともにDVDを作成することもありますが、必ず全員が視聴したかチェックします。小児の点滴固定については、手指衛生のタイミングなども入れ込んでひとつの流れの中で感染対策を一緒に盛り込んだDVDを作成します。お二人の先生方のように手順書やポスターを掲示する方法は参考になりました。
松尾先生:当院では正期産であればICU入室児であっても問題なく使用しています。NICUでは生後すぐは胎脂によってしっかり固定できない懸念があり使用できていません。
村上先生:生後すぐの小児にも使用しています。胎脂はアルコール綿で拭きとると刺入部の観察もでき、テガダーム™ I.V. コンフォート(小児用)もしっかり貼りついています。また小児科に導入する際に、新生児科の医師も一緒に、3M担当者からの説明を聞いていただいたので、特に問題なく使用しています。PICCの場合は切れ込みが不要なので別のカテーテル被覆・保護材を使用しています。
野田先生:本日のお二人のお話を拝聴して、本製品1 枚で小児点滴固定が完結できることがわかり、今までの不安が払拭されて大変自信を持つことができました。