当院中材では、物理的パラメータ、化学的インジケータ(CI)、生物学的インジケータ(BI)で複合的に滅菌評価を実施しています。CIは滅菌におけるすべての重要パラメータへの反応に加え、BIと相関のあるタイプ5を全滅菌物に挿入しています。BIを使用する際は、必ず滅菌工程の有効性を評価するPCD(Process Challenge Device:工程試験用具)を用いて確認しています。「医療現場における滅菌保証のガイドライン2015」では、インプラント器具の滅菌工程においてBIを毎回使用することが推奨されています1)。しかし、当院ではインプラント器具に限らず、すべての滅菌物に対して毎回BIを使用しています(図1)。器材によって運用方法を変えることは極力避け、できるだけ業務をシンプルかつ標準化する仕組みを作っています(表1)。例えば、脊椎手術に用いた器材はプリオンによる汚染を想定して滅菌時間を18分としていますが、それ以外の滅菌物は原則10分に統一しています。
図1 3M™ アテスト™ オートリーダー
3種の滅菌法(蒸気滅菌、過酸化水素ガス滅菌、フラッシュ滅菌) が1台のオートリーダーで対応可能
表1 洗浄から払い出しまでの時間
再処理(洗浄・滅菌)にかかる時間を中材室に掲示し、スタッフ間で共有
滅菌の質保証が損なわれた場合の追跡調査を可能にするために、滅菌物の処理履歴などをいつでも確認できるよう、トレーサビリティを導入しています。手作りのオリジナルフォーマットをシール印刷したものに洗浄・滅菌履歴を記録して、滅菌物に貼っています(図2)。これにより、感染対策室からの手術部位感染(SSI)が疑わしい症例の報告や手術室からデブリードマンの再手術の情報が入った場合などに、中材はトレーサビリティシステムを用いてインジケータや滅菌器の運転記録などを確認し、速やかに関係部署へフィードバックすることを可能にしています。
フラッシュ滅菌は、術中に不慮の器材汚染が発生した場合に使用されるものですが、強制的な空気排除がないため、通常の蒸気滅菌器に比べて滅菌不良が発生する可能性が高いとされています。したがって、当院では滅菌の質保証を最重視する考えから、原則的にフラッシュ滅菌は使用不可としています。緊急で医師からフラッシュ滅菌の依頼が入った時は、中材スタッフが医師のもとに出向いてフラッシュ滅菌のリスクを伝え、代替の医療器材や滅菌法を提案します。それでもやむを得ずフラッシュ滅菌を必要とする場合は、医師にカルテへの記録を依頼し、あわせて中材から感染対策室へ使用の経緯を伝え、情報共有するようにしています。
当院は2020年11月に国際的な医療機能評価機関であるJCI(Joint Commission International) の認証を取得しました。整形外科単科病院としては国内で初めてのことです。これは数年前の中材の状況からは想像だにしないことでした。以前の中材には滅菌に関する有資格者が一人もおらず、第2種滅菌技士の資格を持つ手術室の看護主任から滅菌業務の不備を指摘される状況でした。他部署から指摘を受け続けるうちに中材スタッフにも滅菌に対する強い意識が芽生え、3名が一念発起し第2種滅菌技士の資格を取得しました。これが中材レベルアップの第一歩であったと思います。その後は他の中材スタッフにも学びの連鎖が生まれ、研修会にも積極的に参加するようになりました。院内ではマニュアル整備と並行してスタッフへの伝達講習を重ね、滅菌に関する知識・技術のレベルの向上に努めていきました。
そのような中、当院のJCI受審が決まり、それを機に中材の体制見直しを図ることになりました。これまでいた副主任の上に新たに管理者を配置することになり、手術室から2名が師長、主任として配属され、この新体制でJCI受審の準備に取り組むことになりました。まず「医療現場における滅菌保証のガイドライン2015」で最も強く推奨されている勧告A(病院内滅菌を行うすべての施設で実行すべき項目)をすべてクリアすることから始めました(図3)。最終チェックは3Mの「洗浄・滅菌業務チェックリスト」を用いました。そこで不備に気づかされることもあり、例えば、滅菌物保管棚の一番下の遮蔽板がなかったためアクリル板で対応するといったかたちでその都度改善していきました。3MのチェックリストはJCIで求められる項目がほぼ網羅されているため、チェックリストによる確認作業は、今までの滅菌業務を客観的に見直す良い機会にもなりました。また、滅菌の質保証に対する中材スタッフの自信や業務へのモチベーションアップにもつながったと思います。
図3 JCI受審に向けた改善例
中材業務のレベルアップを追求していくなかで、他部署との連携の重要性に気づかされました。JCI受審前にあらかじめ模擬審査や内部監査を行いましたが、その際には他部署との連携が不可欠でした。
しかし、滅菌に関して他部署に理解を求め、連携してもらうことは容易ではありません。他部署は器材がどのような工程を経て提供されるかについて知り得る機会が少ないため、滅菌に理解を示すことは難しいように見受けられます。したがって、他部署との連携を生むためには、まず中材業務をアピールする必要があります。
そのために感染対策室の感染管理認定看護師とは常にコミュニケーションをとり、他部署との連携が必要な場合は力を借りながら中材から積極的にアプローチするように意識しています。また、手術室と中材で行う感染リンクナース会議を月1回開催し、感染症や感染件数の報告をする場を設けたり、手術室の朝のミーティングに中材スタッフも参加して情報共有しています。手術室には膝・肩・脊椎・人工関節などの疾患別にチームがありますが、これにあわせて中材も疾患別チームを編成して対応しています。例えば、肩疾患手術の器械を整理したい場合は、必要に応じて手術室と中材の担当者が話し合いの場を持って情報共有することで、チーム内で事前に不明点を解消できる体制を構築しています。
JCI受審以降、中材スタッフの滅菌の質に対する意識は飛躍的に高まりました。スタッフからの質問が増え、器材ごとに洗浄や滅菌の方法、プログラムを自主的に考えることが増えてきました。フラッシュ滅菌については医師や手術室スタッフに滅菌保証の質低下を理解してもらう資料として各滅菌法の所要時間の一覧表を作成し、配布する取り組みを自主的に行っています(表2)。
手術は感染リスクと常に向き合っているため、器材の滅菌の質保証は安全・安心を手術室に提供する感染防止の命綱です。その業務の重みを中材スタッフ一人ひとりが自覚して日常業務のモチベーションにつなげていくためには、管理者からの指示を待つトップダウン体制ではなく、スタッフ一人ひとりを起点としたボトムアップの活動が大切だと考えています。その土壌づくりのために、中材では洗浄と滅菌の2つのグループに分け、各グループに3名のリーダーを配置し、課題や問題が生じた際は、リーダー間で話し合い、対応策を決めて実践し、検証する体制をとりました。こうした取り組みを繰り返していくことで、各スタッフが主体的に考え、行動する力が今後ますます養われていくことを期待しています。
JCIは3年ごとに更新審査があります。評価基準は審査のたびに厳しくなるため、次の受審に向けてスタッフ教育にもさらに注力していきたいと考えています。幸い、学会など外部研修への参加には病院による支援があります。参加者は後で報告書を提出し、部署スタッフに伝達講習を行います。子育て世代のスタッフは外部研修会への参加が難しいこともあるため、WEBセミナーやDVD、SNSからの情報提供を活用し、勤務時間内に学習できる工夫も行っています。
表2 フラッシュ滅菌の運用に関する周知