医療安全、品質向上、業務改善などの観点から洗浄・滅菌業務の中央化や外部委託を導入する医療機関が増えています。それに伴い、病院側と滅菌供給部門を担う委託業者との密な連携と病院職員の滅菌物に対する意識改革が重要な課題となっています。
大分県立病院では、2008年に洗浄・滅菌業務の中央化を導入した後、これらの業務を全面的に外部委託しました。そこで今回、透析室・中央材料室 看護師長 佐々木祐三子氏と医療安全管理部 感染管理室 看護師長 感染管理認定看護師 大津佐知江氏にさらなる滅菌の質向上を推進していく上での委託業者との連携のあり方、スタッフ教育の重要性、さらには地域連携の中で地域全体の滅菌の質を底上げする取り組みについて、お話を伺いました。
当院は566床を有し、手術件数は年間4,500件を超える三次救急指定病院です。中央材料室(以下、滅菌供給部門)は責任者1名(第2種滅菌技士)、手術室担当7名、外来・病棟担当6名の全14名で稼働しており、手術室や外来・病棟で使用するRMD(再使用可能医療機器)の洗浄・滅菌及び洗浄・滅菌装置の操作や日常点検を行っています。
2008年4月、外来や病棟で行っていた一次洗浄を廃止し、中央化しました。その後、一部委託だったこれらの業務を全面的に外部委託し、滅菌物の搬送や補充は滅菌供給部門が担当することになりました。
中央化した当初、感染防止リンクナースから病棟が滅菌物で溢れ、整理整頓が難しい状況であるとの相談を受けました。そこで、各病棟のリンクナースに聞き取りを行ったところ、看護部と委託業者の業務分担が不明瞭、滅菌物の保管・管理の責任の所在が曖昧、委託業者は補充点検のみ(RMDの破損や使用期限切れの点検は行っていない)、病棟は滅菌物の依頼から供給まで時間がかかることを見越して多めに物品請求している、などの問題点が浮上し、看護部と委託業者との間に認識の相違があることがわかりました。
これらの課題を受けてリンクナースと委託業者が参加する合同カンファレンスを実施し、問題点を洗い出し対策を検討しました。そこでは、委託業者から滅菌物の定期点検を行うことの提案や、リンクナースがガイドライン1,2)を基に作成した滅菌物保管方法のチェック表を用いて各病棟の滅菌物チェック担当者が毎月物品の定数管理を行うことを決め、病棟と委託業者のダブルチェック体制をとりました。その後も滅菌供給部門スタッフと手術室師長、感染管理認定看護師、委託業者が参加する月1回のミーティングの機会を設け、1ヵ月の間に発生した問題点について話し合うことにしました。こうした取り組みを継続することにより、使用期限切れの滅菌物や滅菌物の包装の破損をなくすことができました。
中央化と外部委託において、看護部と委託業者で滅菌物の保管・管理に関する認識の相違が明らかになりましたが、その背景には滅菌物に関することはすべて委託業者任せという意識が看護師の間にあったことは否めません。しかし、問題が生じたことを契機に病棟でも積極的に物品管理に取り組もうとする意識が芽生えるようになり、委託業者との関係構築をはかりながら協働で進めていくことが重要であるという教訓を得ました。
滅菌供給部門は、安全な滅菌物を現場に供給することが最も重要な使命であり、滅菌の質を維持・向上するために日々、委託業者と業務改善を検討しています。
当院では間もなく洗浄・滅菌装置の更新時期を迎えます。装置類について精通した委託業者の専門的な知識や情報を参考にしながら検討していきたいと考えています。しかしながら、コストに関しては滅菌供給部門の看護師長が主体となり、病院の管理部門と交渉していく必要があります。交渉をスムーズに進めるために、他施設で起きた医療事故の事例や取り組み、ガイドラインの変更点などを説得材料にして、物品採用のメリットを理解してもらうように努めています。感染管理上必要なインジケータなどの物品については、ICTラウンドで指摘された専門家の意見を前面に押し出し、物品購入の交渉を進めるようにしています。
今後の取り組みとして、手術室の効率的な運用のために器械類の整備と診療科の器材セットの見直しを予定しています。これらの作業に関しては安全・安心な滅菌物の供給を念頭に置きつつ、コスト抑制も意識しながら進めていきたいと考えています。
また、当院は次年度にロボット手術の導入を控えています。スムーズに導入を進めるために委託業者の協力を得ながら手術室との連携を強化し、ロボット手術に対応した洗浄・滅菌体制の構築に尽力していきたいと思います。
当院は「感染対策向上加算1」の医療機関で、年4回、全職員を対象に感染に関する教育を行っていますが、そのうちの1回は洗浄・滅菌管理をテーマとしています。中央化により委託業者に全面移管すると、病院職員の滅菌物に対する意識が希薄になりがちです。しかし、洗浄・滅菌業務が外部委託であっても医師や看護師は実際にRMDを使う立場にあるため、インジケータや使用期限切れ、包装破損などの確認について基本的な知識を持っておく必要があります。
感染管理の視点から洗浄・滅菌業務の状況をみて、適切な管理がなされるよう滅菌供給部門の全スタッフと対話の機会を重ねながら足並みを揃えるようにしています。
滅菌供給部門へのラウンド時は、業務での困り事についてヒアリングを行い、コンサルテーションするかたちでコミュニケーションをとっています。また、汚染器材を扱う滅菌供給部門スタッフは針刺しや粘膜曝露のリスクがあるため、使用済み縫合針や注射針などは使用現場で除去し返却するように啓発しています。誤って返却された場合は、責任者から看護師長に報告しています。
中央化から3年ほど経った2011年、滅菌供給部門と感染管理室が合同で、看護師に対して滅菌物に関する調査を行いました。教育に関する項目では、滅菌物に関する教育を受けた認識があると答えた割合は47%で全体の半数に届かず、そのうち教育を受けた場として最も多いのは臨床現場という回答でした(図1)。内訳をみると、入職3年目までの職員は、学校などの教育機関や入職時オリエンテーションが多く、それ以降になると当然ながら徐々に臨床現場が主要な教育の場となっていきます。医療や感染対策は日々進歩しているため現場での実践的な教育が重要になってきますが、逆に言えば、指導的立場にある職員の知識も問われてきます。その意味でICTラウンドによる現場への定期的な教育により、スタッフのレベルを底上げしておくことは極めて重要であると考えています。
滅菌物の保管・管理に関する認識と行動に関する調査では、18の調査項目を作成して行いました。調査結果から得られた課題として、滅菌物の保管場所を物理的に確保できない、滅菌物の正しい取り扱いを認識していない、認識しているが滅菌供給部門を信頼しているので行動に移せない、といったことがあげられました。これを受けて、2012年に「滅菌物の保管・管理」、「安全な滅菌物の取り扱い」の2つのテーマで感染防止対策研修会を実施しました。その後の調査では教育を受けた認識があるとする回答は8割に上り、滅菌物の保管・管理の遵守率は2011年の79.8%から2012年は88.3%に高めることができました(図2)。
教育の成果として滅菌物に対する職員の意識は看護師の間では徐々に高まってきたように思われますが、研修医をはじめとする医師に関してはまだ低いと言わざるを得ないのが現状で、今後、勉強会を通して意識の向上をはかっていきたいと考えています。
当院は「感染対策向上加算1」の医療機関であり、加算2や3の医療機関と連携して感染対策に係る各種指導を行う役割を担っています。この連携の中で地域の滅菌の質の向上に努めています。また、小規模病院では看護師が洗浄や滅菌を行っているケースがあり、そうした施設に着任した滅菌の知識や経験が浅い看護部長から滅菌業務の運用について相談を受けることがあります。有効な教材として「ICTラウンドにも使える イラストでよくわかるはじめての洗浄・消毒・滅菌ラウンド」を紹介しています(図3)。本冊子は滅菌供給部門に必要とされる項目(洗浄から滅菌、保管や供給など)が全体的に網羅され、イラストを豊富に用いてシーンをイメージしやすく表現されているため、洗浄・滅菌の入門的教材としてお奨めです。
大分県には洗浄・滅菌業務の勉強会として年2回開催する「大分県洗浄・滅菌業務研究会」があります。通常、こうした研究会は講師の講演を聴講して勉強する形式が多いですが、当会は参加者が業務に関する日頃の不安や悩みを打ち明け合い、それについて10人程度のユニットでグループディスカッションするスタイルをとっています。ガイドラインなどの最新情報に関する教育講演もありますが、講演後はそのテーマに関連した各施設での課題についてグループディスカッションを行い、他施設との情報交換の中で参考となる改善策を自施設に持ち帰って反映させるようにしています。研究会は関連の企業や委託業者にも参加してもらっています。
残念ながらコロナ禍で研究会の開催がままならず、外部とのコミュニケーションの機会が減り、情報入手が困難な状況が続いています。しかし、自施設だけの取り組みでは解決できない問題もあります。今後は可能な範囲で外部とコミュニケーションをとる機会を増やしながら、有用な情報を入手し、自施設の洗浄・滅菌業務に反映させていきたいと考えています。