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SARS-CoV-2、そして多剤耐性菌との戦い。 現場では何が起きたか。 -患者と医療者を守るICU感染制御-

SARS-CoV-2、そして多剤耐性菌との戦い。
現場では何が起きたか。

-患者と医療者を守るICU感染制御-

  • (左)聖マリアンナ医科大学救急 医学 藤谷 茂樹 先生、右)聖マリアンナ医科大学 救急医学 吉田 英樹 先生

    (左)聖マリアンナ医科大学
    救急医学
    藤谷 茂樹 先生
    (右)聖マリアンナ医科大学
    救急医学
    吉田 英樹 先生


COVID-19患者は一度重症化すると急激に増悪し治療は困難を極める。こうした状況に最前線で対処するのが集中治療部門である。COVID-19の原因となるSARS-CoV-2の感染経路には飛沫感染、次いで接触感染があげられるが、重症COVID-19患者の集中治療管理においてはエアロゾル発生手技に伴う空気感染も感染リスクの高い重要な感染経路として考慮に入れ、予防策を講じなければならない。本講演では聖マリアンナ医科大学 救急医学の吉田英樹先生に患者急増時のゾーニングの考え方とその一例、PPE枯渇を回避するための節約戦略、空気感染予防を重視した気道管理の注意点、さらにCOVID-19治療中の二次感染症対策までを自施設ICUにおける重症COVID-19患者の治療管理の経験を踏まえてお話しいただいた。  
  
  

集中治療領域におけるCOVID-19 の現状と課題

COVID-19が世界的流行を始めてから今日までWHO(世界保健機関)、CDC(米国疾病予防管理センター)、IDSA(米国感染症学会)、 ECDC(欧州疾病予防管理センター)など世界中の機関からCOVID-19の感染防止ガイドラインが出され、診療の指針となる大量の情報が提供されるようになった。集中治療領域においてはSICM(欧州集中治療医学会)・SCCM(米国集中治療学会)合同によるSurviving Sepsis Campaign guideline COVID-19バージョン、ANZICS(オーストラリア・ニュージーランド集中治療医学会)によるCOVID-19ガイドラインがあり、後者は日本集中治療医学会から翻訳版が出ている。
COVID-19の原因であるSARS-CoV-2の最も重要な感染経路として飛沫感染と接触感染があげられるが、これに加えて重症COVID-19患者の治療に最前線であたるICUでは気管挿管や抜管、気管切開などのエアロゾル発生手技の際にSARS-CoV-2を含んだエアロゾルを吸い込んで感染する空気感染のリスクが指摘されている。そのためICUにおけるCOVID-19対策は飛沫感染と接触感染の予防に加え、エアロゾル発生手技に伴う空気感染の予防の必要性が複数のガイドラインで強調されている。
  


COVID-19 患者区域のゾーニングにおける問題点と対策

重症COVID-19患者の複数管理において最も重要な対策はエンジニアリングコントロール、すなわち患者管理区域における適切な隔離・換気といったゾーニングであるとされている1,2)
ゾーニングで最も推奨されるのが陰圧個室である。陰圧個室がなければ通常の個室、個室が足りない場合はCOVID-19患者を大部屋に複数収容するコホーティングの順で隔離対応を行い、併せて個人防護具(PPE)着脱のための前室を設けることが推奨されている1)
しかし、ICUではゾーニングに伴うベッド数の確保と換気システムに大きな課題が存在する。ICUの個室は一般的にICU全床の20~25%が割り当てられるため1~3床程度であることが多いが、この程度では重症COVID-19患者の急増時には到底対応できない。さらにICUではCOVID-19陽性患者に加えて疑似症患者も受け入れなければならず、しかも疑似症患者数は陽性患者数に比べて圧倒的に多いこと、疑似症患者は陰性の可能性もありCOVID-19陽性患者とのコホーティングは不可能であることからベッド数の確保は困難を極める。通常、換気システムはICUでは患者ゾーンの清潔を維持するために陽圧管理が基本となる。しかし、COVID-19患者の集中治療管理では外部に汚染が拡大しないよう陰圧管理に切り替えなければならない。
こうしたICUにおけるゾーニング問題への現実的かつ有効性のある対策として考えられるのが、他病棟をICU化してCOVID-19専用病棟とする、簡易工事により個室あるいは閉鎖空間を作成し、収容ベッド数を増やすという対応である。
当院では重症COVID-19患者の急増に伴う患者受け入れ拡大のために各ベッドにビニールカーテンと陰圧ダクトを設置して、HCU全病床の陰圧個室化を図った(図1)。これにより17床の重症病床を陽性・疑似症兼用として確保した(図2)。こうした病床の再編成にあたっては、施設管理を担当するシステムエンジニアの協力が必須であり、受け入れ体制の構築において頼れる大きな力となる。

COVID-19 患者区域のゾーニングにおける問題点と対策

重症COVID-19患者の複数管理において最も重要な対策はエンジニアリングコントロール、すなわち患者管理区域における適切な隔離・換気といったゾーニングであるとされている1,2)
ゾーニングで最も推奨されるのが陰圧個室である。陰圧個室がなければ通常の個室、個室が足りない場合はCOVID-19患者を大部屋に複数収容するコホーティングの順で隔離対応を行い、併せて個人防護具(PPE)着脱のための前室を設けることが推奨されている1)
しかし、ICUではゾーニングに伴うベッド数の確保と換気システムに大きな課題が存在する。ICUの個室は一般的にICU全床の20~25%が割り当てられるため1~3床程度であることが多いが、この程度では重症COVID-19患者の急増時には到底対応できない。さらにICUではCOVID-19陽性患者に加えて疑似症患者も受け入れなければならず、しかも疑似症患者数は陽性患者数に比べて圧倒的に多いこと、疑似症患者は陰性の可能性もありCOVID-19陽性患者とのコホーティングは不可能であることからベッド数の確保は困難を極める。通常、換気システムはICUでは患者ゾーンの清潔を維持するために陽圧管理が基本となる。しかし、COVID-19患者の集中治療管理では外部に汚染が拡大しないよう陰圧管理に切り替えなければならない。
こうしたICUにおけるゾーニング問題への現実的かつ有効性のある対策として考えられるのが、他病棟をICU化してCOVID-19専用病棟とする 、簡易工事により個室あるいは閉鎖空間を作成し、収容ベッド数を増やすという対応である。
当院では重症COVID-19患者の急増に伴う患者受け入れ拡大のために各ベッドにビニールカーテンと陰圧ダクトを設置して、HCU全病床の陰圧個室化を図った(図1)。これにより17床の重症病床を陽性・疑似症兼用として確保した(図2)。こうした病床の再編成にあたっては、施設管理を担当するシステムエンジニアの協力が必須であり、受け入れ体制の構築において頼れる大きな力となる。

図1 ビニールカーテンと陰圧ダクトによる陰圧個室化

図1 ビニールカーテンと陰圧ダクトによる陰圧個室化

図2 患者受け入れ拡大のためのゾーニングの取り組み

図2 患者受け入れ拡大のためのゾーニングの取り組み

 

重症COVID-19患者急増時のPPE 枯渇回避の工夫

重症COVID-19患者が急増する状況下の感染予防において、ICUの喫緊の課題はPPEの枯渇である。それを回避するためにはPPEの節約を目的とした適正かつ合理的な使用が求められる。
ANZICSガイドラインではPPE節約戦略としてPPEの使用状況・使用量のモニタリング、ケアのバンドル化と遠隔モニタリングによる患者との接触回数の低減、診察を担当医に限定した接触者の低減、待機的処置の延期、コホーティング対応によるガウン着脱回数の低減、二重手袋の外側1枚のみ患者ごとに交換、 N95マスクの代替として再利用可能なPAPR(電動ファン付呼吸用レスピレータ)の使用、N95マスクの長時間使用(連続4時間まで)を紹介している1)
感染リスクの高いエアロゾル発生手技を日常的に行う集中治療において、PPEの中でもN95マスクの枯渇は最も深刻な問題である。本来、N95マスクは単回使用が原則であるが、それでは枯渇を免れない。WHOのガイダンスではCOVID-19に対するN95マスクの合理的な使い方として「使用延長」と「再利用」をあげている3)。使用延長とはN95マスクを通常の使用時間や製造元の推奨する使用時間よりも延長して着用するもので、一連の作業中は着脱を伴わない使用法である。ただし、この方法はコホート下のCOVID-19患者に対応するケース、かつ他の伝播し得る微生物感染が院内に存在しない状況に限定して適応されるべきとしている3)。再利用とは着脱を伴う使用法であり、使用済みのN95マスクに触れた手指から粘膜にウイルスが伝播する接触感染のリスクや、着脱の繰り返しによるマスクの破損・防御機能の低下、フィッティング異常、さらに5回以上の装着でフィットテスト不合格となるなど感染防御の破綻につながる問題を生じる。そのためWHOのガイダンスではN95マスクの再利用は他に手立てがない場合の最終手段として特別な対応であることを認識しておくべきとしている3)。しかし、実臨床においては在庫数の問題から1日1枚以上の使用は厳しく、特別の対応をとらざるを得ない状況にある。
再利用の場合のN95マスクの除染方法として、過酸化水素による滅菌が報告されているが、特別な機器を要する。また、アルコール噴霧による消毒はマスクの捕集効率とノーズフォームの粘着力を低下させる問題があることから避けるべきである。

 

COVID-19 患者の気道管理の工夫

COVID-19患者の気道管理は感染リスクの高い状況下で行われるため、感染防止のために工夫すべき点がいくつかある。そのひとつが気管切開のタイミングである。
COVID-19患者の気管切開は早期に行うとウイルスの感染伝播リスクが高く、遅くなれば人工呼吸器離脱やリハビリの遅れにつながる。切開の理想的なタイミングを支持する科学的根拠は今のところ乏しいが、多くのガイドラインにおいて気管切開は人工呼吸器開始から10日間以内に行うべきではないとしている。これに加えイギリスのガイダンスでは、気管切開をすると腹臥位がとれなくなるため呼吸状態が改善してから行うこと、気管切開前の抗原検査陰性確認は必須ではないことを記している4,5)
当院での気道管理における工夫をいくつか紹介する。人工呼吸器回路の着け外しをできるだけ減らすために、当院では患者移動の際は人工呼吸器を装着したままで行っている。人工呼吸回路の交換では実施前に酸素化を行い、次にチューブ鉗子で挿管チューブをクランプする。クランプ後は空気と酸素の配管を素早く抜き、呼吸器の換気停止を確認した上で呼吸器回路を外して吸引チューブを交換する。交換後は速やかに酸素と空気の配管を接続し、呼吸器が換気を開始したことを確認して挿管チューブのクランプを解除する。この一連の手順によりエアロゾル発生の防止を図っている。抜管については、通常30分間から2時間程度とされるSBT(Sponta-neous Breathing Trial;自発呼吸トライアル)時間をより抜管成功率を上げるために延長している。
気道管理におけるhigh-flow nasal cannula(HFNC)の使用に関しては海外からいくつかの報告がある。それによるとHFNCのメリットとしてはリソースの限られた人工呼吸器を担保する、挿管処置というエアロゾルが発生する手技を回避できることがあげられている6)。また、呼気拡散についてはHFNCと酸素マスクとの比較で両者に差がないとする報告7,8)もある。さらにはHFNC実施時の患者のマスク着用の有無の比較では、マスク着用時は飛沫核の拡散は有意に軽減されたとする報告がある9)

 

重症COVID-19 患者における二次性感染症と対策

トロント大学の抗菌薬耐性研究ネットワークによる継続的メタアナリシスによると、COVID-19患者に合併した呼吸器感染症は共感染で4.9%に対し二次感染で16.0%と二次感染の合併率が高く、さらに重症例では細菌感染の合併率が高いことが示されている10)
海外のICUにおける単施設観察研究ではCOVID-19患者83例(93.9%が人工呼吸器管理)中43例(51.2%)に二次感染による細菌感染症が発症し、うち30.7%が菌血症に至ったとする報告11)や重症COVID-19患者50例(82%が人工呼吸器管理)中20例(40%)に二次感染として菌血症が発症し、うち7例に多剤耐性のAcinetobacter baumanniiが検出されたとする報告がある12)。また、COVID-19患者への対応として抗炎症薬を使用することで逆に二次感染による菌血症が増加するという報告もある13)。これらのことから重症COVID-19患者においては二次性の細菌感染症発症率が極めて高い可能性があることが示唆される。
当院ICUでも人工呼吸器管理下の重症COVID-19患者67例における二次性の菌血症発症率は19.4%(13/67)、ECMO導入例で55.6%(5/9)と高率に二次性感染症の合併がみられた(表1)。これはCOVID-19患者の長期管理を反映したものと考えられる。
さらに問題は二次感染の原因菌の多剤耐性化である。当院で経験した重症COVID-19患者における多剤耐性菌感染症のアウトブレイクとその対応について紹介する。
ECMO導入患者を含む重症COVID-19患者2例に二次感染による緑膿菌菌血症が発症した。いずれも当初はカルバペネム系抗菌薬に感受性であったが、後に耐性を獲得し、カルバペネム耐性緑膿菌が検出されるようになった。1例が人工呼吸器離脱により転院となった後に、同じくカルバペネム耐性緑膿菌の定着が発覚した症例が2例認められた。4例とも同室にコホーティングされていた時期があり、水平伝播が疑われた。そこで対応として、耐性菌発生源と考えられる長期抗菌薬投与が必要な症例を個室管理とし、残りの2例をコホーティングして、他の患者を入室させないようゾーニングを図った。その後に元の病室の洗浄を徹底的に行った結果、以後はカルバペネム耐性緑膿菌の検出はみられなくなった。
重症COVID-19の集中治療においては、COVID-19だけでなく、合併症としての二次性感染症とも戦っていかなければならない。残念ながらその対策の根拠となるエビデンスはまだ構築されていないため、現状は既存の基本的予防策を徹底することが最善の策であると考える。そのためには既存のガイドラインを参考に、エビデンスに基づく対策を講じていくことが大切である。
血流感染対策における最近の注目すべきトピックとして、CDCのカテーテル関連血流感染(CRBSI)予防ガイドライン一部改訂(2017年)によるカテーテル挿入部位のドレッシング法の推奨度変更がある。ガイドラインでは従来、挿入部位の被覆にはクロルヘキシジン含有ドレッシングの使用をカテゴリー1Bで推奨してきたが、質の高いRCTでCRBSI予防効果が証明されたことを根拠として18歳以上の患者の被覆処置においてはクロルヘキシジン含有ドレッシングの使用をカテゴリー1Aに引き上げて強く推奨している14)
これに基づいて当院ではCRBSI予防の目的でカテーテル挿入部位の被覆には3M™ テガダーム™ CHGドレッシングを使用している(図3)。重症COVID-19患者は長期のICU管理が必要な状態であるため、二次性感染症に対しては発症してから対応するのではなく、いかに発症を予防するかを念頭に置いた対策を講じることが最も重要であると考える。

表1 重症COVID-19患者における当院の二次感染合併率

表1 重症COVID-19患者における当院の二次感染合併率

図3  CHG含有ドレッシングによる血流感染予防

図3  CHG含有ドレッシングによる血流感染予防

引用文献

1)ANZICS. COVID-19 Guidelines VERSION 3, 20 OCTOBER 2020.
2)CDC. Interim Infection Prevention and Control Recommencations for Healthcare Personnel During the Coronavirus Disease 2019(COVID-19)Pandemic, 2021.
3)WHO. Rational use of personal protective equipment for coronavirus disease (COVID-19) and considerations during severe shortages. Interim guidance, 23 December 2020.
4)McGrath BA, et al. Tracheostomy in the COVID-19 era:global and multidisciplinary guidance. Lancet Respir Med 2020; 8(7): 717-25.
5)McGrath BA, et al. Multidisciplinary guidance for safe tracheostomy care during the COVID-19 pandemic:the NHS National Patient Safety Improvement Programme (NatPatSIP). Anaesthesia 2020; 75(12): 1659-70.
6)Alhazzani W, et al. Surviving Sepsis Campaign: guidelines on the management of critically ill adults with Coronavirus Disease 2019(COVID-19). Intensive Care Med 2020; 46(5): 854-87.
7)Li Jie, et al. High-flow nasal cannula for COVID-19 patients: low risk of bio-aerosol dispersion. Eur Respir J 2020; 55(5) , 2000892.
8)Leung CCH, et al. Comparison of high-flow nasal cannula versus oxygen face mask for environmental bacterial contamination in critically ill pneumonia patients: a randomized controlled crossover trial. J Hosp Infect 2019; 101(1): 84-7.
9)Leonard S, et al. Reducing aerosol dispersion by High Flow Therapy in COVID-19: High Resolution Computational Fluid Dynamics Simulations of Particle Behavior during High Velocity Nasal Insufflation with a Simple Surgical Mask. J Am Coll Emerg Physicians Open 2020; 1(4):578-91.
10)TARRN. Bacterial Co-Infection and Secondary Infection in Patients with COVID-19: A Rapid Systematic Review and Meta-Analysis. https://tarrn.org/covid (2021 年 3 月 31 日時点)
11)Soriano MC, et al. Low incidence of co-infection, but high incidence of ICU-acquired infections in critically ill patients with COVID-19. J Infect 2021; 82(2): E20-1.
12)Kokkoris S, et al. ICU-acquired bloodstream infections in critically ill patients with COVID-19. J Hosp Infect 2021; 107:95-7.
13)Giacobbe DR, et al. Bloodstream infections in critically ill patients with COVID-19. Eur J Clin Invest 2020; 50(10): e13319.
14)CDC. 2017 Updated Recommendations on the Use of Chlorhexidine-Impregnated Dressings for Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2017.


収録:2021年2月 第48回日本集中治療医学会 共催セミナー20 にて

3M、テガダームは、3M社の商標です。

*承認番号:22200BZX00663000 販売名:テガダーム CHG ドレッシング