手術室ではどのような皮膚トラブルが発生しているのでしょうか?
このグラフは、2018年にスリーエム ジャパンが手術室に勤務する看護師168名に対して行ったアンケートの結果です。
「粘着製品による皮膚障害」が47%で最も多く、「圧迫やズレによる褥瘡やMDRPU」、「消毒薬による化学刺激」が続きます。
「皮膚トラブルに直面することがない」方も4%いらっしゃいましたが、多くの方が何らかの皮膚トラブルの経験があり、その多くが、粘着製品に関連していることがわかりました。
※以下のコンテンツをご希望の方は、弊社営業担当者へのお問い合わせ、または、こちらのサンプル・資料請求フォームよりご請求ください。
粘着製品の使用が原因となる皮膚の変化には、大きく分けて「一時的な皮膚反応」と、不可逆的な「皮膚トラブル」があります。
一時的な皮膚反応:
湿潤(蒸れ)・浸軟(ふやけ)のリスク
「蒸れ」や「ふやけ」自体は、皮膚トラブルではありませんが、皮膚トラブルの発生につながりやすい状態と考えられており、注意が必要です。
発汗等により皮膚の水分が増加すると、蒸れた(湿潤)状態になる。更に水分が過剰になると、角質層をはじめとする皮膚が、ふやけた(浸軟)状態になる。
【手術室ではさらに】
患者さんの状態によっては消毒薬、体液、洗浄液などの液体により皮膚の湿潤・浸軟が起きることがある。また、患者さんの体温管理が適切にできていない場合やオイフ下で通常の不感蒸泄が妨げられることで起こるリスクがある。
角質細胞間の隙間が広がり、バリア機能が低下する。結果、粘着製品や化学物質による皮膚トラブルが起こりやすい状態になる。
【手術室ではさらに】
上記の状態の皮膚に手術室で使用される粘着力の強い製品の剥離によって、皮膚剥離(スキン-テア)のリスクが高くなる。その他、粘着製品関連以外にも消毒薬による化学熱傷などのリスクや、皮膚の表面摩擦の上昇による褥瘡等のリスクが高まる。
吸水性・放熱性の高い素材のマットレスやシーツを選択し、蒸れが起こらないようにする。発汗時は速やかに汗を拭きとり、撥水対策を行う。
【手術室ではさらに】
術前・術中の体温をモニタし適切な加温を行い、発汗を促進しないようにする。 アイソレーションドレープなどを使用し、薬液などが皮膚に触れないようにする。 ひまく剤やはくり剤を併用し、スキントラブルのリスクを低減する。
手術室での粘着製品による皮膚トラブル:
粘着製品での物理的・機械的刺激による皮膚トラブルの具体的な例としては、「発赤」、「紫斑」、「皮膚剥離」、「緊張性水疱」、「スキン-テア」などがあります。
粘着製品の使用に際してのリスク因子をまとめたガイドラインなどはありませんが、ここでは参考として「スキン-テア」のリスク因子を示しています。全身状態をあらわす加齢や行われている治療、皮膚の状態など、患者さんごとのリスクを検討する際に、これらの因子の有無や該当する数などが参考になるでしょう。
このような患者さんの全身状態や皮膚の状態に関するリスク因子は病棟や外来でも評価されていることが多いと考えられますので、申し送りなどの際にその評価結果を確認した上で、長時間手術や術式などの手術室特有のリスクを検討することが重要です。
※一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会,ベストプラクティス スキン-テア(皮膚裂傷)の予防と管理(2015)より引用
粘着製品の特性が皮膚トラブルの発生につながる強いリスク因子の一つとなる理由として、粘着力の強さが挙げられます。安全な手術の遂行が第一の目的である手術室では、使用中に剥がれないように粘着力の強い製品を使用するという特徴があります。
ここでは、手術室で良く使用される粘着製品の特性をまとめています。
手術室では、目的に応じて、形状や特性が多様な粘着製品が使用されています。それぞれの用途や特性を理解して適切な対策を行うことが重要です。
全体として共通しているのは「強い粘着力」で、使用目的に応じた清潔操作の必要性や、浮きや剥がれによるリスクも考慮する必要があります。
気管内チューブ固定 | カテーテル固定 | 切開用ドレープ | オイフ | 電極 | 対極板 | 各種モニタ、センサ |
• 事故抜管を防ぐために、よだれなどの水分に強く、粘着力の強いテープが使用される • チューブ部分はしっかりと固定されるよう伸びの少ないテープが適している |
• モニタリングや輸液の目的で使用されるカテーテルの固定のため、粘着力が強い • 切込みや周囲補強などの形状による工夫によって剥がれにくくなっている |
• 皮膚常在菌の切開創への移行を防ぐために強い粘着力が必要 • 創縁部からの剥がれを防ぐために、水蒸気透過性がある方が良い • 一度伸ばすと縮みにくいデッドストレッチの性能があると剥がれずらく、皮膚への余計なテンションがかかりづらい |
• 不潔域から術野・切開部を隔離し、清潔に保つ目的で使われるため、剥がれないよう、また隙間から洗浄液等が流れ込まないようにしっかりとした粘着力で固定する必要がある | • 主目的である心電図波形の品質を担保する必要がある • 波形品質の高い全面導電型の電極では横から大量に水分が入ると導電粘着剤がふやけることがある • 皮膚の弱い患者さん向けに波形品質と皮膚への優しさのバランスの良い製品選択も可能 |
• 少しの剥がれが熱傷のリスクに繋がるため、電気メス使用中に絶対に剥がれない強い粘着力が不可欠 • 比較的小さい粘着面積でも、電流を対極板全体に分散させることで熱傷リスクを低減する特殊構造を持った対極板もある |
• BISモニタや体温のモニタリング用センサなどは、術中に確実に患者状態をモニタするために一定の粘着力が必要 |
皮膚トラブルリスクを低減する貼り方には、大きく分けて2つの注意点があります。
1)皮膚にテンションが掛からないように、粘着製品を伸ばした状態で貼らない
伸縮性のテープは引っ張って伸ばした状態で皮膚に貼らないこと、またテープを巻き出しながら貼らないことに気を付けます。
2)貼った直後に、もう一度圧着する
このグラフは、粘着力の経時変化をあらわしています。横軸が粘着剤を貼ってからの時間の経過で、縦軸が粘着力です。
粘着製品は、体温や水分などの影響で、貼った直後から時間の経過とともに粘着力が上昇していきます。
手術室では「剥がれては困る」という懸念から、強い粘着製品を使用することが多く、また、剥がれを心配して大きな面積のテープを使ったり、重ね貼りしたりする場面もあります。貼るときにしっかりと圧着させてその粘着製品の粘着力を最大限に高めておくことで、必要以上に強い粘着力・大きな面積の製品の使用や、余計な貼り直し・重ね貼りなどをする必要がなく、皮膚トラブルを引き起こすリスクを回避できます。
3M™ マルチポア™ 高通気性撥水テープ EXを使用した固定方法です。テープを伸ばさずに貼り、指の腹でやさしく圧着することで、安定した粘着力が得られます。
再生時間:1分42秒
3M™ マルチポア™ 高通気性撥水テープ EXを使用した固定方法です。2枚重ね貼りするとテープが剥がれやすくなるため、テープ1枚でしっかり固定する方法をご紹介します。
再生時間:1分42秒
3M™ アイオバン™ インサイズドレープ(紙ライナータイプ)の貼り方
一般医療機器 届出番号:13B1X10109000229 販売名:アイオバン スペシャル インサイズドレープ
製品の詳細はこちら
一人がフィルムの両端部を持ち、もう一人が「Stop」マークのところまでライナー紙を剥がします。
貼付位置を決め、少したるませて、中心から外側に向かって皮膚に貼付していきます。
滅菌タオル等で、しわが入らないようにしっかり圧着し、ライナー紙を全部剥がします。フィルムを引っ張り過ぎて皮膚に緊張がかからないように注意してください。
3M™ ユニバーサル プレート セーフティリング付の貼り方
管理医療機器 認証番号:21000BZY00288000 販売名:3M ユニバーサル プレート
製品の詳細はこちら
対極板のライナーを剥がし、対極板の端を密着させます。
皮膚を引っ張らないように気を付けながらゆっくりと端から撫でるように貼付します。
最後に、しっかりと密着させるように中央部から外に向かって撫でつけます。
皮膚トラブルリスクを低減する剥がし方のポイントは3つです。
1)剥離速度をゆっくりと
2)180度の剥離角度で
3)手で押さえて皮膚の持ち上がりを防ぐ
粘着製品の皮膚粘着力は、時間の経過とともに上昇します。貼る時には粘着力はそれほど強くないと思っていた粘着製品でも、手術が終了する頃、剥がす時には粘着力が強くなっていることが予想されるため、注意が必要です。
粘着製品を剥がすとき、皮膚にはどのような負担がかかっているでしょうか?
皮膚から粘着製品を剥がすとき、皮膚は柔らかいため、図にあるように粘着剤に合わせて皮膚も伸ばされながら剥がれていきます。無造作に剥がしてしまうと、皮膚が持ち上がり、負担がかかってしまいます。
まず、粘着製品の角の部分を指の腹で数回撫でるようにして端をめくります。この時、爪で端を引っ掻いて起こすと皮膚を傷めてしまうことがありますので、注意しましょう。端が指でつかめるようになったら、図のように約180度に折り返すように剥がします。
もう片方の手や指で皮膚が持ち上がらないように押えながらゆっくりと剥がしていきます。
3M™ アイオバン™ インサイズドレープ(紙ライナータイプ)の剥がし方
一般医療機器 届出番号:13B1X10109000229 販売名:アイオバン スペシャル インサイズドレープ
製品の詳細はこちら
創縁部の周辺(約2~3㎝)のフィルムを剥がし、切開創を縫合します。
粘着部を180度に折り返し、滑らせるようにしてゆっくりと剥がしてください。粘着境界部を手で押さえるなどして、皮膚に緊張をかけないように注意してください。
粘着面から上方へ垂直に引っ張らないでください。皮膚が持ち上がり、表皮剥離の原因になります。
3M™ ユニバーサル プレート セーフティリング付の剥がし方
管理医療機器 認証番号:21000BZY00288000 販売名:3M ユニバーサル プレート
製品の詳細はこちら
対極板の縁を指の腹で剥がし、少し持ち上げます。
手で剥離方向と反対方向に少し引っ張るようにして皮膚が持ち上がらないように押さえながら、ゆっくりと180度方向に返します。
そのまま最後までゆっくりと剥がします。
手術室でよく使用されるドレーンやチューブの貼り方・はがし方の基本テクニックはこちら
手術室での粘着製品による皮膚トラブル:
特に皮膚トラブルが心配な患者さんへの対策として、ひまく剤やはくり剤を使用した対策が考えられます。それぞれの使い分けについて解説します。
こんな時に・・・
• 剥がすときに時間をかけられないことがある
• 患者の皮膚の状態に赤み・肌あれがある
• カテーテル固定時のドレッシング材貼付などの清潔操作時は滅菌済みの製品を使いたい
こんな時に・・・
• 対極板や電極などのセンサ類や、経皮吸収剤、切開用ドレープなど、本来の目的を阻害する恐れがあるのでひまく剤は使えない
ひまく剤は皮膚の上に薄いひまく層を形成します。
その上に粘着製品を貼付した場合、剥離時にはその皮膜が角質細胞の代わりに剥がれるので、患者さん自身の角質細胞が剥がれることを防ぎます。
使用対象:テープ、ドレッシング材、ドレープ(オイフ)など
※注意点
皮膚上に膜ができるので、対極板など電気信号や電流を通すことを目的とする製品との併用は避けてください。特に対極板については熱傷のリスクがあるため、絶対に使用しないでください。
3M™ キャビロン™ 非アルコール性皮膜には、個包装の滅菌タイプがあるので、テープの下にはもちろん、ドレッシング材やドレープなど消毒後の皮膚にも安全に使用していただけます。
ドレープ周辺へ塗布する際は、ひまくが消毒効果の妨げにならないよう、皮膚消毒の後にひまく剤を塗布します。
皮膚トラブルを防ぐために、消毒薬を十分に乾燥させてからひまく剤を塗布します。
はくり剤は、大きく2種類に分けられます。
一つは、オイル系のはくり剤です。オイル系は、粘着剤に溶け込んで柔らかくし、粘着力を弱めることで剥がしやすくします。剥がしたあとはオイルが皮膚に残りますので、石鹸や清拭によってそのオイルを除去する必要があります。
二つ目はシリコーン系のはくり剤です。
シリコーン系は、薄く広がりやすい特性を活かし、粘着剤と皮膚の間の僅かな隙間に染み込んで粘着製品を浮き上がらせて剥がしやすくします。剥離後もほとんど皮膚に残らないので、かんたんな清拭で除去できます。
使用対象:ドレープ、対極板、電極、チューブ固定用の医療用テープ など
3M™ キャビロン™ 皮膚用リムーバーは、シリコーン系のはくり剤で、皮膚と粘着製品の隙間に滑り込むように広がり、粘着力を弱めていきます。非アルコール性で、低刺激です。軽く握ってどの角度でも使えるスプレータイプと、狭い範囲や局所にもピンポイントで使用可能な個包装のワイプタイプがおすすめです。
3M™ キャビロン™ 皮膚用リムーバーのスプレータイプは、飛散性がありますので、手術室内では3M™ キャビロン™ 皮膚用リムーバー ワイプの使用を推奨します。
安全にお使いいただくために 使用時の注意点
粘着製品の使用目的や使用場所、皮膚の状態に応じて選択してください。
気管内チューブの固定テープ | カテーテルやドレーンの固定テープ | 対極板 | 電極等センサ類 | 切開用ドレープ | カテーテル刺入部 | 赤みや肌荒れのある皮膚 | |
〇 | 〇 | 使用不可(熱傷のリスク) | 推奨しない(電気信号への影響のリスク) | 推奨しない(乾燥不足の場合の電気メスによる燃焼) | 〇 | 〇 | |
△(顔面に使用するためスプレータイプは不適) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 使用不可(未滅菌のため、汚染の恐れ) | 推奨しない(皮膚トラブルのリスク) |
3M™ キャビロン™ 皮膚用リムーバーのスプレータイプは、飛散性がありますので、手術室内では3M™ キャビロン™ 皮膚用リムーバー ワイプの使用を推奨します。
トピックス:
スキン-テアとは?
一般社団法人 日本創傷オストミー失禁管理学会の日本語版STAR スキンテア分類システム用語集には、「主として高齢者の四肢に発生する外傷性創傷であり、摩擦単独あるいは摩擦・ずれによって、表皮が真皮から分離(部分層創傷)、または表皮および真皮が下層構造から分離(全層創傷)して生じる。」と記載されています。
表皮・真皮・皮下組織全体が弱く、薄く、ズレて剥がれやすくなる高齢者に発生しやすいと言われています。
2018年には、入院基本料に含まれる「褥瘡対策」の危険因子の評価項目に、スキン-テアの「保有」と「既往」が加わりました。これにより入院される方全員に対して、この評価が行われ、記録されるようになりました。
スキン-テアの有無は、手術前に確認し、術中の皮膚トラブル対策を検討しましょう。
Aライン等に使用されるカテーテル固定用のフィルムドレッシング材などは、病棟で使用されているものが参考になるかも知れません。
スキン-テアは実際にどのようなときに発生しているのでしょうか。
一般社団法人 日本創傷オストミー失禁管理学会の調査結果によると、最も多いのが「摩擦・ずれ・擦れ」、次に「テープ剥離時」となっています。
これらの発生状況は、手術室でも発生するリスクが高いのではないでしょうか。無理な体勢での体位固定やローテーション、強い粘着力のテープなどを使用しなければならないことの多い手術室は、スキン-テアが発生しやすい状況なので、注意が必要です。