A1. 「N95マスク」とは「レスピレーター」、「微粒子用マスク」、「呼吸器防護具」などとも呼ばれる、ある種の空気感染源からの呼吸器感染のリスク軽減を目的として設計、開発された着用者(医療従事者)保護用マスクです。
米国ではOSHA(米国労働安全衛生局)が「呼吸器防護具」はNIOSH(米国労働安全衛生研究所)による認証を受けたものでなければならないと規定しています。
医療環境で使用される呼吸器防護具には、N95マスクやPAPRなどが挙げられます。
A2. 「サージカルマスク」を着用する一義的目的は、着用者(医療従事者)の呼気中に含まれ排出される微生物などから患者を守ることにあります。又、耐水性のあるサージカルマスクは着用者(医療従事者)が血液・体液由来の病原体に曝されるリスクを軽減するという目的も兼ね備えています。
一方、「N95マスク」はある種の空気感染源を捕集します。又、感染源が顔面とマスクの隙間から侵入しないよう、顔面に密着するよう設計されています。現在市販されているサージカルマスクのほとんどはN95マスクが備えている捕集効率や密着性を備えていません。したがって、N95マスクで期待される呼吸器感染の原因となる物質の吸入リスク軽減をサージカルマスクに求めることは不適当です。
A3. OSHAは、Occupational Safety and Health Administrationの略で米国労働安全衛生局と呼ばれる米国労働省の機関で、各種労働安全基準を制定、執行、監視しています。呼吸器防護具についても対象となる危害、危険の種類に応じた規定を定めています。もし、雇用者が作業者の環境に合致した呼吸器防護具の着用をさせていない場合、雇用者に対し、罰金を科する権利を有する執行機関です。
A4. NIOSHは、National Institute for Occupational Safety and Healthの略で、米国労働安全衛生研究所とよばれる米国衛生省の機関で、呼吸器防護具の試験方法、規格の制定及び認定を行なっています。
A5. N95マスクとは固形塩化ナトリウムエアロゾルの捕集効率試験をした時に95%以上の捕集効率を保証されたマスクです。
NIOSHは42CFR Part84と呼ばれる規格基準を制定しており、これは9クラス(N、R、Pの3種別、95、99、100段階別の組み合わせ)の規格区分を定めたものです(下表1.参照)。N、R、Pいずれの種別も1μm(1マイクロメーターは1/1000ミリメーターに相当)以下の粒子で試験され、その捕集効率は試験開始時及び、定められた試験時間中経時計測されます。
N種区分の試験粒子は固形塩化ナトリウム(NaCl)、R種及びP種区分の試験粒子は液滴ジオクチルフタレート(DOP)です。95、99、100の段階別区分はそれぞれ捕集効率95%以上、99%以上および99.97%以上を表します。
表1.呼吸器防護具の規格区分
フィルター性能(ろ過効率) | |||
95(95%) | 99(99%) | 100(99.97%) | |
N種 | N95 | N99 | N100 |
R種 | R95 | R99 | R100 |
P種 | P95 | P99 | P100 |
A6.
N:Not resistant to oil = 耐油性なし
R:Resistant to oil = 耐油性あり
P:Oil Proof = 防油性あり(規定の捕集効率より低下しない)
NIOSHが例示している油性エアロゾルには潤滑剤、グリセリンなどがあり、非油性エアロゾルには各種固形粒子、水性のエアロゾルがあります。
A7. 42CFR Part84の前文でNIOSHは新しい規格の呼吸器防護具は、もっとも捕集しにくい(フィルターを通過しやすい)サイズの範囲内の試験粒子で試験されなければならない、としています。これは空力学的質量径でおおよそ0.3μmにあたります。固形塩化ナトリウム(NaCl)の試験粒子は、0.075μmの数量中位径を持っており、これを空力学的質量径に換算すると、おおよそ0.3μmになります。また、ジオクチルフタレート(DOP)の試験粒子は、0.185μmの数量中位径を持っており、これも空力学的質量径に換算すると、おおよそ0.3μmになります。
参考資料
表2.NIOSH 42CFR Part84呼吸器防護具捕集効率試験条件
(試験流量:完成品マスク当たり毎分85±4リットル)
N種 | R種 | P種 | |
試験粒子 | NaCl | DOP | DOP |
数量中位径 | 0.075μm | 0.185μm | 0.185μm |
濃度 | 200mg/m³以下 | 200mg/m³以下 | 200mg/m³以下 |
表3.サージカルマスク・N95マスク・PAPRの違い
サージカルマスク | N95マスク | PAPR | |
着用目的 | ①着用者を飛沫から守る(標準予防策) ②着用者の唾液に含まれる感染性病原体の飛散防止 ③咳エチケット |
空気感染予防 (抗がん剤曝露予防) (レーザー手術時の粉塵吸収防止) |
空気感染予防 新興感染症発生時 |
着用場面 | ①患者呼吸器分泌物、血液・体液が飛散し、鼻口腔粘膜がこれに曝露するリスクがあるとき(下痢患者の失禁ケア、口腔ケア、気管内吸引、創部洗浄、吐物・汚物処理) ②腰椎穿刺、中心静脈カテーテル挿入時など ③咳・くしゃみ・鼻水のあるとき |
①結核疑い、結核患者と接するとき ②上記患者の検体を扱うとき ③SARS、H1N1患者に対し、気管挿管などエアロゾルを発生する処理を行うとき |
①結核疑い、結核患者と接するとき ②上記患者の検体を扱うとき ③SARS、H1N1患者に対し、気管挿管などエアロゾルを発生する処理を行うとき |
規格 | ASTM F2100-11 (BFE,PFE,液体防護性,⊿P,燃焼性) |
Nacl(0.3μm)の捕集効率試験で95%以上捕集 | Nacl粒子捕集効率99.97%以上、指定防護係数25または1000 |
認証 | FDA(日本での認証なし) | NIOSH(米国)DS2(日本) | JIS(日本)NIOSH(米国) |
利点 | ・簡単に入手可 ・N95マスク、PAPRより安価 |
・空気感染予防策必要時に部署に設置してあればすぐに着用が可能 ・PAPRに比べて安価 |
・呼吸が楽 ・着用が簡単 →フィットテストが不要 →N95マスクに慣れていない医療従事者でも自身を守ることが可能 |
課題 | ・正しい着用場面の啓発 ・日本に基準がないため、選択基準が不明瞭 |
・フィットしているN95マスクを選択する必要がある ・定期的なフィットテストが必要 |
・大仰な外観から患者に恐怖心を与える可能性 ・高価 ・バッテリーが切れた場合の対応 |
A9. 米国ではOSHAが医療施設に対しすべての呼吸器防護具を正しく使用するための呼吸器防護プログラムを備える事を義務づけています。このプログラムには文書化された手順、検診、トレーニング、フィットテストが含まれます。
フィットテストには、定性的なテストと定量的なテストがあります。定性的なテストとして、弊社では3M™ フィットテストキット FT-10をご用意しています。
3M™ フィットテストキット FT-10はサッカリンのエアロゾルを使用する定性フィットテストキットで、呼吸器防護具のフィットテストが簡便に行えます。3M™ フィットテストキット FT-10を用いたフィットテストは所要時間10分から20分で、N95マスクがフィットしているかどうかを判断することができます。
また、定量フィットテストは、装置を用いた客観的に漏れ率を数値で測定する方法です。詳細については、下記ウェブアドレスご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=kRiA6vXxhdk
フィットテストはN95マスクをサージカルマスクとして使用する場合には義務づけられません。
フィットテストとは別に、N95マスク着用毎にユーザーシールチェック(以前はフィットチェックと呼ばれていた)が必要です。ユーザーシールチェックは着用者自身が、隔離区域 / 汚染区域に立ち入る前に、N95マスクが顔にフィットしているかを確認する簡易手段です。ユーザーシールチェックはマスク着用の度に必ず行わなければなりません。ユーザーシールチェックはフィットテストの代わりにはなりません。
A10. 米国ではOSHAが、雇用者に対して以下の場合においてフィットテストを義務付けています。
医療施設の中には従業員の定期検診時に、毎年顔の型の変化をチェックしているところもあります。米国規格協会(ANSI)では最低年1回のフィットテスト実施を勧告しています。
A11. いいえ。OSHAは従来より、これらのテスト方法を取る場合呼吸器防護具はHEPAフィルター、または「本質的に完全な濾過性能を持つ素材」であることを規定しています。
すなわち、試料の感知がフィルター性能でなく、顔面との密着性の適否を示していることを保証するためには、フィルター素材による捕集効率が文字どおり100%であるような試料を選ばねばなりません。刺激性の煙は1μm以下の粒子であり、N95クラスのフィルターは1μm以下の粒子に関しては5%未満の透過が認められており、これらのテスト方法で調べた場合、試験試料の感知がフィルター透過によるものなのか、顔面との密着性が不備なための漏れによるものなのか判定が困難となります。
A15. N95マスクは米国でCDCが2005年に改訂、発行した「医療施設における結核菌感染対策のためのガイドライン」で定めている「呼吸器感染防護(防止)器具」の規格に合致しています。又、OSHAも結核菌への職務曝露時にN95クラス以上(NIOSHの定めた微粒子用マスク規格9クラスすべて)の微粒子用マスク、もしくはPAPR(電動ファン付き呼吸用保護具)を使用することが適当であるとしています。
N95マスクはそれのみで感染や発病を100%防止するものではありません。呼吸器防護具着用は患者の早期発見、隔離、陰圧換気、医療従事者の定期検診といった総合的感染防止対策の中のひとつと位置づけられるべきものです。
(参考文献:柴田 清;結核防止のためのマスク(レスピレーター)の使用経験,Infection Control,vol.6(4),p50-52,1997.)
(参考文献:Willeke K, et al;Tuberculosis control through respirator wear:Performance of National Institute for Occupational Safety and Health-regulated respirators,Am J Infect Control,26(2),p139-142,1998)
参考資料